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想いを繋ぐ紅玉 第1章

1863年春、江戸。

酷暑が続く中、土御門有匡は今日も奉行所での仕事を終えると、昼飯を食べに行きつけの蕎麦屋(そばや)へと向かった。

「いらっしゃいまし。」
「いつものを頼む。」
「はいよ。」
蕎麦を待っている間、店の隅にある席で稽古帰りと思しき数人の町娘達がチラチラと自分の方を見ながら何やらヒソヒソと話をしている事に気づいた。
「ねぇ、あの人格好いいねぇ。まるで役者絵から抜け出て来たようなお人じゃないの。」
「止しなよ、あの人お武家様よ。あたしらとは身分が違うんだから。」
「あたしの許婚もあんないい男だったらねぇ。」
彼女達は賑やかな笑い声を上げながら取り留めのないお喋りをした後、蕎麦の代金を払って店から騒がしく喋りながら出て行った。
「お待たせしました。」
彼女達が出て行った後、店員の娘が有匡の前に出来立ての蕎麦を置いた。
「かたじけない。」
有匡が蕎麦を啜っていると、店に一人の女性客が入って来た。
その女性客を、有匡は知っていた。
「まぁ有匡様、ご無沙汰しております。」
そう言って有匡に向かって会釈をしたのは、高原家の女中であり、有匡の許婚である火月(かげつ)の乳母である久だった。
「久殿、このような場所で会えるとは奇遇ですな。何処かへお出かけになられていたのですか?」
「はい・・お嬢様が芝居見物をしたいとおっしゃったので、お供をしておりました。」
「そうですか。」
有匡と久がそんな話をしていた時、慌ただしい足音と共に、火月が店に入って来た。
「有匡様、お会いしとうございました!」
火月はそう言って有匡の顔を見るなり彼に抱きついた。
「お嬢様、お行儀が悪いですよ。」
久は慌てて火月を有匡から引き剥がすと、彼女に向かって小言を言った。
「ごめんなさい、有匡様と久しぶりにお会いするので何だか嬉しくて、つい抱きついてしまいました。」
「良い。それよりも火月、芝居見物に行ったそうだが、贔屓(ひいき)の役者は見つかったのか?」
「いいえ。僕は昔からずっと、有匡様しか見ていませんから。」
「・・そうか、それは良かった。」
有匡は火月の言葉を聞くとそう言って彼女に微笑んだ。
「それではわたくし達はこれで。お嬢様、行きますよ!」
「有匡様、これで失礼いたします。」
「ああ、気を付けて帰れよ。」
店から去っていく火月の背中を優しく見つめた後、有匡は残りの蕎麦を平らげた。
「またのお越しを。」
蕎麦屋から出た有匡は、誰かが自分の後を尾けて来ている事に気づいた。
「何者だ?こそこそ後を尾けて来たりするような真似をせず、正々堂々と私の前に姿を現したらどうだ?」
「チェッ、バレたか。」
有匡の背後の草叢(くさむら)が動いたかと思うと、彼の前に一人の娘が現れた。
「艶夜(つや)、また何かわたしに用か?」
「その名で呼ばないでくれる、有匡。ねぇ、あの娘と本当に夫婦になるつもりなの?」
娘―有匡の妹・艶夜は、そう言うと彼を見た。
「ああ。それがお前と何か関係があるのか?」
「まぁね。あの娘の家の事なんだけど、最近悪い噂が広まっているんだって。」
「悪い噂だと?その話、詳しく聞かせて貰おうか?」

有匡は柳眉を吊り上げ、妹を見た。


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