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2037.07/08(Wed)

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小説について

二次創作のジャンルは、主に「天/上/の/愛/地/上/の/恋」(ルドアル)、「F/L/E/S/H/&/B/L/O/O/D」(ジェフリー×海斗)、「火/宵/の/月」(有匡×火月)などがあります。

「First」にも書きましたように、このブログサイトは管理人・千菊丸の個人的趣味で運営しているもので、出版社様・作者様とは一切関係ありません。また、二次創作小説におきましてはパラレルなど、必ずしも原作に沿った設定のものではない小説がほとんどですので、そういった類の小説がお嫌いな方は閲覧をご遠慮ください。また、作品の中には一部残酷描写などが含んでおりますので、そういった描写が苦手な方も閲覧をご遠慮ください。

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2037.07/08(Wed)

First:必読事項


このたびは、「Eternally」にお越しくださって有り難うございます。

ここは性描写ありの一部R18指定の二次創作小説サイトです。一部残酷描写等含みますので、実年齢・精神年齢ともに18歳未満の方や、BL、二次創作が嫌いな方は入室をご遠慮ください。

また当サイトは管理人・千菊丸による非公式かつ個人的趣味のサイトであり、作者様及び出版社様とは一切関係ありません。


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これらの警告を無視されて入室されました後の苦情・不快感等は受け付けませんのでご了承くださいませ。

本サイトに掲載してある小説は全てフィクションです。作品に登場する人物、団体、事件などは全て架空のものです。

間違って入ってこられた方はコチラへお戻りください。
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2023.10/28(Sat)

漣 第二話


「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。

オメガバースに嫌悪感を抱かれている方は閲覧しないでください。

「ジェフリー、ジェフリー!」
ハリウッドスターがリムジンから降りると、女性達の黄色い悲鳴が周囲に響き渡った。
ジェフリー=ロックフォードは、サングラスを外すと女性達にウィンクをした。
「ジェフリー、行くぞ。」
「あぁ、わかったよ。」
親友でありマネージャーのナイジェル=グラハムに急かされたジェフリーは、リムジンで宿泊先の旅館へと向かった。
「あんたがこんな所に行きたいなんて、意外だな。」
「昔から海が好きでね。俺の前世は海賊だったかもしれん。」
「馬鹿も休み休み言え。」
ナイジェルはそう言うと、鞄から一枚の書類を取り出した。
そこには、海斗の名前と家族構成、そして第二性が記載されていた。
突然親友が何の変哲もない漁師町に来た理由をナイジェルはわかったような気がした。
「ナイジェル、俺の運命の相手とはいつ会えるんだ?」
「そんなに慌てるな、ジェフリー。」
ナイジェルとジェフリーがそんな会話をしている内に、二人を乗せたリムジンは旅館の前に停まった。
「ロックフォード様、ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ。」
リムジンから降りたジェフリーとナイジェルは、東郷夫妻から歓迎され、旅館の最高級スイートルームに通された。
『ようこそお越しくださいました。』
『この家に、カイトという娘が居る筈だが・・』
『カイトは、もうここには居ません。』
『何故ですか?』
『実は、今朝カイトを見初めた者が・・』
海斗の母親は、そう言うと口ごもってしまった。
『サンティアゴ財閥の方から、今朝連絡が来ました。娘は自分の番なので妻に迎えると・・』
「何だと・・」
ジェフリーの蒼い瞳に、怒りの炎が宿った。
「ナイジェル、すぐに東京へ向かうぞ!」
「あぁ・・」
一方、東京のサンティリャーナ邸では、海斗はダイニングルームでビセンテ達と朝食を取っていた。
「あの、一度両親を連絡していいんですか?」
「構わない。」
「では、失礼します。」
海斗はダイニングルームから出た後、テラスへ移動し、ビセンテからスマートフォンで実家に連絡した。
「海斗、ごめんね。」
「どういう事?」
友恵は、コロナ禍で旅館の経営が苦しくなり、多額の負債を抱えてしまった事、そしてその借金を帳消しにする代わりに海斗とビセンテを婚約させた事などを話した。
「ごめんね、後であなたの荷物はそっちに送るから・・」
「もう、いい。」
海斗は借金の為にビセンテに売られた事を知り、ショックを受けた。
「大丈夫か?」
「すいません、スマホ、返します。」
「ご両親から全て聞いたのだな?」
「はい・・」
「何も心配しなくていい、君の事をわたしが守る。」
ビセンテは、震える海斗を抱き締めた。
(わたしは、彼女を妻として心から愛してみせよう。たとえ、彼女との結婚が打算的なものだとしても。)
ビセンテは、寝室の寝台の中で眠る海斗の手を優しく握った後、寝台の天蓋を閉めた。
「カイトは?」
「眠っている。」
「若、失礼致します。」
サンティリャーナ家の執事・ペドロが、少し困ったような事情を浮かべながら、ダイニングルームに入って来た。
「若・・」
「どうした、何かあったのか?」
「実は・・」
「俺の花嫁を返して貰おうか、サンティリャーナ。」
「カイトはわたしの妻となる女だ、誰にも渡さぬ。」
「そうかい・・じゃぁ、こっちにも考えがあるぜ。」
「ほぉ、やる気か、イングランド人?」
「二人共、やめろ。」
「止めるな、アロンソ。こいつは・・」
ビセンテとジェフリーが睨み合っていると、慌てて二人の間にアロンソが割って入って来た。
「異母弟が失礼な事をして済まなかった、ロックフォード殿。ここで立ち話も何だから、酒を飲みながら話をしよう。ペドロ、酒とつまみの用意を頼む。」
「かしこまりました。」

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21:02  |   |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/28(Sat)

漣 第一話



「FLESH&BLOOD」の二次小説です。

作者様・出版社様とは一切関係ありません。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。

オメガバースに嫌悪感を抱かれている方は閲覧しないでください。

「海斗、起きなさい!」

不思議な夢を見た海斗は、友恵に叩き起こされて渋々と布団から出ると、冷たい風が彼女の頬を撫でた。
「ご飯の前に、外の掃除をして来て!」
「え~!」
「さっさとやりなさい!」
海斗は溜息を吐くと、箒と塵取りを持って旅館の外へと出た。
「寒っ!」
厚手の上着を羽織っておいて良かった―海斗がそう思いながら玄関前の掃除をしていると、そこへ一台の車が停まり、中からスーツ姿の男が出て来た。
「東郷海斗さんですね?」
「はい・・あの、俺に何か?」
「わたくし、こういう者です。」
スーツ姿の男はそう言うと、一枚の名刺を海斗に手渡した。
「“サンティアゴ財閥総帥・ビセンテ=デ=サンティリャーナ”・・」
「今すぐ、わたしと共に来て頂きたい。」
「ちょっと、待って!」
有無を言わさず、海斗はスーツ姿の男に黒塗りの車の中に押し込められた。
(俺、これからどうなるの!?)
 助けを呼ぼうにもスマートフォンは自室に置いたままだし、財布も持っていない。
「ちょっと、これから俺を何処へ連れて行くつもりなんですか!?」
「それは、着けばわかります。」
「せめて、親には連絡を・・」
「ご両親の許可は取っています。」
「はぁ!?」
状況がわからぬまま、海斗はスーツ姿の男に東京へと連れて来られた。
「若、お帰りなさいませ。」
高級住宅地の一角にある屋敷で漸く黒塗りの車は停まり、海斗とスーツ姿の男を出迎えたのは燕尾服姿の執事だった。
「あの、ここは・・」
「わたしの家です。」
「若、こちらへ。」
執事とスーツ姿の男と共に屋敷の中へと海斗が入ると、そこには金髪碧眼の男と、厳つい顔の男が長椅子の上に座っていた。
『ビセンテ、その子が君の花嫁か?』
(え、この人今何て言った?)
「あの、俺はどうしてここに連れて来られたんですか?俺にもわかるように話してくださいませんか?」
『ビセンテ、もしかしてそのお嬢さんに何も説明せずに、ここまで連れて来たのか?』
『はい。』
『それは駄目だろう!』
金髪碧眼の美男子は、そう言って溜息を吐いた後、海斗の方へと向き直った。
「済まない、お嬢さん、弟はどうやら色々と誤解しているようなんだ。」
「誤解!?」
「実は・・」
ビセンテの異母兄・アロンソは、海斗にこの家の事情を話した。
サンティリャーナ家は現在、相続争いの只中にあり、ビセンテは親族からの縁談を断る為、海斗を自分の花嫁としてここへ連れて来たのだという。
「どうして、俺がここに連れて来られたのか、事情は大体わかりました。でも・・」
「わたしが君を花嫁として選んだのは、君がわたしの番だからだ。」
「え?」
「ビセンテ、落ち着け!」
「父上に認められなくてもいい、わたしは・・」
海斗は急に激しい眩暈に襲われ、気を失った。
「ビセンテ、あの子をここへ連れて来る前に、色々とやる事があっただろう?」
「はい・・」

同じ頃、海斗の故郷では、あるハリウッドスターが映画撮影の為に来日し、大騒ぎになっていた。

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21:00  |   |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/19(Thu)

金と黒 第3話


「まぁ、おかしな事をおっしゃるのね。」
ヴィクターの言葉を聞いた女は、そう言って笑った。
「わたくしが売っているのはハーブです。」
「では・・」
「女はいつの時代も、己の命を削ってまでも美を手に入れるつもりですわ。」
「何だと?」
「砒素は、鮮やかな緑を生み出すものですわ。量を間違えてしまうのは、命取りになりかねませんわ。」
「何が言いたい?」
「ジェニー、これは一体どういうことなの!?」
ヴィクターと女が睨み合っていると、店のドアベルが鳴り、中に太った女が入って来た。
その顔は、ツィテと同様、醜く腫れ上がっていた。
「あらあら、お可哀想に。」
「笑い事じゃないわよ!」
太った女はそう叫ぶと、ある物をカウンターに叩きつけた。
それは、ツィテが口にしたのと同じ茶葉だった。
「痩せるって言うから買ったのに、何なのよこれは!」
「茶葉には確かに痩せる効果はありますが、個人差があると、ご購入の時にはっきりと説明したでしょう?」
「でも・・」
「返金なら致します。」
女は太った女にそう言うと、金貨が詰まった袋と小瓶を彼女に渡した。
「ありがとう。」
店から上機嫌な様子で出て行った女をヴィクターが見送ると、女は彼に先程太った女に渡した物と同じ小瓶をカウンターに置いた。
「それは?」
「あの方の、顔の腫れを治す解毒薬ですわ。これを、ツィテ様に飲まして差し上げて下さいな。」
「わかった・・」
「またのお越しを、お待ち申し上げておりますわ。」
女は不敵な笑みを浮かべると、店の奥へと消えていった。
「本当に、これを飲めば腫れが治るのですか?」
「はい。」
「ありがとうございます、先生。」
女の言葉に嘘はなく、彼女から渡された解毒薬を飲んで眠った後、あの酷く腫れ上がった顔はすっかり元に戻っており、ツィテは鏡で己の顔を見た後、思わず安堵の溜息を吐いた。
「良うございましたね、お嬢様。」
「えぇ。もう怪しいものには手を出さないわ。」
「その方がいいでしょう。」
「そうか。そのハーブ店の女店主がどうもあやしいな。」
「わたしも、そう思います。ルドルフ様、どちらへ?」
「少し野暮用へな。」
「はぁ・・」
ルドルフが言う、“野望用”とは、すなわち女との密会だ。
「お前も来るか?」
「いいえ、結構です。」
「何だ、つれないな。」
ルドルフはそう言うと、そのままヴィクターに背を向けて歩き出した。
「お帰りなさい、あなた。」
「ただいま。」
ヴィクターが帰宅すると、妻のエレーヌが彼を出迎えた。
「随分と疲れているわね。」
「あぁ、色々とあってね。」
「そう。」
エレーヌと共に夕食を食べながら、ヴィクターはあのハーブ店の謎めいた女店主の事が寝るまで頭から離れなかった。
「最近、吸血鬼騒ぎがこの近辺で起きているのですって。」
「へぇ、それは物騒だね。」
「何でも、その吸血鬼を見た人間は、その恐ろしさで気が狂ったそうよ。あなたも気をつけてね。」
「わかったよ。」
吸血鬼なんて、昔のおとぎ話の中にしか登場しないものだと、ヴィクターは“その日”まで信じていた。
「じゃぁな。」
「あぁ、またな。今夜はお前と久しぶりに会えて良かった。」
“その日”、ヴィクターは学生時代の友人と久しぶりに会って楽しく酒を酌み交わした。
上機嫌で、少し酒に酔いながらヴィクターが夜の街を歩いていると、路地裏の方から変な“声”が聞こえて来た。
(何だ?)
耳を澄ませてみると、その“声”は徐々にヴィクターの元へと近づいて来た。
(おいおい、嘘だろ・・)
すっかり酔いが醒めたヴィクターは、その“声”の主―巷を騒がしている吸血鬼を見て、恐怖の余り失神した。
“吸血鬼”が彼の喉元にその鋭い牙を食い込ませようとした時、その首は宙に舞った。
「ったく、面倒かけさせやがる・・」
そう言って吸血鬼の血で濡れた刃を払った黒髪の女は、舌打ちした後その場から離れようとした。
しかしその前に、彼女は銃を背後から突きつけられていた。

「動くな。」

(厄介だな・・)

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22:05  |  オリジナルBL小説「金と黒」  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/19(Thu)

金と黒 第2話


―今年に入って三人目ですって・・
―恐ろしいわ・・
―犯人は吸血鬼なのかしら?

「お嬢様、マリー様からお手紙が届きました。」
「そこへ置いておいて頂戴。」
「はい。」
マリーの友人であるツィテは、髪をブラシで梳いた後、彼女が自分に宛てた手紙の封を切った。
そこには、また人が死に母が狂っている事などが書かれていた。
「お嬢様、客間にお客様が・・」
「わかったわ。」
親友からの手紙を読み終えたツィテは、自室から出て、階下にある客間へと向かった。
そこには、自分の元婚約者であるユリウスの姿があった。
「お久しぶりですわね。一方的にわたくしとの婚約を破棄したあなたが、今更わたくしに何のご用かしら?」
「ツィテ様、どうか・・」
「イザベル、お客様のお帰りよ!」
ユリウスはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、その前に屋敷から叩き出された。
「朝から嫌な気分だわ。」
「お嬢様、どちらへ?」
「すぐに戻るわ。」
ツィテがそう言って屋敷から出ると、“ある場所”へと向かった。
「おやお嬢様、いらっしゃいませ。」
「“例の物”をお願い。」
「かしこまりました。」
ハーブ店の店主・ジェニーは、ツィテにそう言って金貨が詰まった袋と引き換えに、“例の物”を取り出した。
「どうぞ、これからもご贔屓に。」
「ええ。」
ツィテは、帰宅した後に、“例の物”をティーポットの中に入れた。
「お嬢様、ロザリア様がお見えです。」
「わかったわ。エリー、この“お茶”をロザリア様に。」
「わかりました。」
「あら、どうしたの?辛気臭い顔をして・・」
「ロザリア様、お忙しいのに一体何のご用でしょうか?」
「あなた、これからどうするつもりなの?」
「あなたに、関係ないでしょう?」
「大ありよ!あなたが独身だと、わたくしの立場が・・」
「お茶、冷めない内にどうぞ。」
「ありがとう。」
ロザリアは、何の疑いもなくツィテが“例の物”を入れたお茶を飲み干した。
「では、また暇があったら来るわね。」
「ええ、お待ちしておりますわ。」
厄介な客人が去り、ツィテは安堵の溜息を吐いた。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「疲れたから、部屋で休んでいるわ。」
「はい。」
ツィテは自室に入ると、そのまま着替えもせず寝台の中に横になり、そのまま眠ってしまった。
「ん・・」
彼女が目を覚まして窓の外を見ると、そこは漆黒の闇に包まれていた。
一体、自分はどれほど眠っていたのだろう―そんな事を思いながらツィテが乱れた髪を整えようと鏡で自分の顔を見た瞬間、彼女は悲鳴を上げた。
「何なの、これ!」
「お嬢様、どうされたのですか?」
「わたしの顔が~」
「ひぃぃ~!」
ツィテの顔は、醜く腫れ上がっていた。
すぐさま医師が彼女を診察したが、原因が判らず治療のしようがなかった。
「ツィテ様、最近何か妙な物を口にされた事はございませんでしたか?」
「妙な物・・あのハーブ店で貰った、茶葉しか思いつかないわ。」
「それは、今もまだこちらにございますか?」
「ええ。」
医師は、ツィテから渡された“例の物”が入った茶葉を手に取ると、その臭いを嗅いだ。
「この茶葉を、暫く預からせて頂いてよろしいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ。」
医師はツィテから預かった茶葉の成分を調べると、その中には人体に有害な物が含まれている事に気づいた。
「ルドルフ様、今よろしいでしょうか?」
「ヴィクターか。どうした?」
「この茶葉に、微量ですが砒素が含まれていました。どうやら、怪し気なハーブ専門店で、“美容茶”として売り出されているようです。」
「そうか。その店の主を調べろ。」
「はい。」
医師・ヴィクターは、ツィテが“毒茶”を購入したハーブ店へと向かった。
「あら、珍しい事。」
黒猫を抱いた店主の女は、そう言って蠱惑的な笑みを口元に浮かべた。
「いらっしゃいませ。」
「貴様か、砒素入りの茶を売ったのは?」

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22:04  |  オリジナルBL小説「金と黒」  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/19(Thu)

金と黒 第1話


弔いの鐘が、村中にこだました。

―またなの?
―よく人が死ぬわね。
―半年前にも、あそこの大奥様が・・
村人達はヒソヒソとそんな話をしながら、仕事に精を出していた。
「オリヴィア、何をしているんだい、早くあっちのテーブルに酒を運びな!」
「はぁい。」
自分をこき使う女将に向かって内心舌を突き出しながら、オリヴィアは狭い店内を忙しく歩き回っていた。
まだ昼だというのに、店はそれなりに賑わっていた。
娯楽も何もない村では、気心が知れた友人達と酒を飲みながら他愛のない話をするしかないのだ。
―なぁ、聞いたか?あそこのお屋敷、また人が死んだらしいぜ。
―あそこ、呪われているんじゃねぇか?
客達の話を聞きながら、オリヴィアは彼らが高台にあるあの屋敷の事を話している事に気づいた。
あの屋敷には、ハプスブルク家と縁がある貴族が住んでいるというのだが、その姿を一度も自分達は見た事がなかった。
村人達は彼らが吸血鬼か、魔女などの闇の眷属なのではないかという馬鹿らしい噂が広まっていた。
その屋敷では、良く人が死ぬという異常事態が起きているからだろうか、その噂を本気で信じている者達が多い。
「オリヴィア、お疲れさん。」
「お疲れ様です。」
「これ、余ったからやるよ。」
「ありがとうございます。」
店主のグスタフは、時折店の残り物をオリヴィアに分けてくれる。
バスケットの中を覗くと、そこには揚げ立てのドーナツが入っていた。
グスタフが作るドーナツは絶品で、幼い弟達がよく喜ぶのだった。
「今日は、送っていかなくていいのかい?」
「はい。」
「そうか。銃は持っているね?」
この地域には熊がよく出没する為、村人達はナイフや銃で武装していた。
「勿論よ!」
「最近、ここらには山賊が出て来るから寄り道せずに帰るんだよ。」
「ええ!」
店から出たオリヴィアは、宵闇に包まれた街をランプ片手に掲げながら歩いていると、一台の馬車から目にも止まらぬ速さで彼女の前を通り過ぎていった。
馬車は、あの屋敷の方角へと消えていった。
(一体、何なの?あの屋敷で変な集会でも開いているの?)
オリヴィアがそんな事を思いながら家路を急いでいると、その屋敷では故人を偲ぶ会が開かれていた。
「あぁ、また一人死んでしまったわ。この家でもう何人、死んでしまったのかしら?」
「お母様・・」
「呪われているのよ、この家は!」
喪服姿の老婦人は、そう叫ぶと気を失った。
陰鬱な集まりが終わった後、マリーはドレッサーの前で結い上げていた髪を解いて溜息を吐いた。
「お嬢様、今よろしいでしょうか?」
「どうぞ、入って。」
「失礼致します。」
屋敷の執事長が銀の盆に載った蜜蝋が捺された手紙をマリーに手渡すと、彼女はその封を切った。
そこには、流麗な文字で、彼女の幼馴染からお茶会の誘いの旨が書かれていた。
(お茶会、ねぇ・・)
マリーは下書き用の紙を引っ張り出すと、幼馴染の手紙の返事をそこに書き始めた。
“親愛なる、我が愛しの友へ・・”
(これで良いわ。)
「この手紙を、メアリーの元へ届けて頂戴。」
「かしこまりました。」
オリヴィア達が住む村から遠く離れたウィーンの歓楽街では、一人の娼婦が殺されていた。

彼女は、全身の血を抜かれていた。

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2023.10/19(Thu)

天の華 第8話


「香織さん、一体何があったのです?」
「ルドルフさん、見苦しい所をお見せして申し訳ないです。どうやら達也がまた美織に変な言いがかりをつけていたらしくて・・」
「“また”とは?」
「あいつは美織の事が癇(かん)に障るとか言って、何かにつけて美織に絡んでは嫌がらせをするんです。美織、着替えを持って来たから、着替えて来なさい。」
「はい、お兄様。」
美織は香織から着替えが入った紙袋を受け取ると、ルドルフに会釈してパーティー会場から出て行った。
パーティーが終わり、ルドルフは香織と共にホテルのバーラウンジへと向かった。
「香織さん、わたしに話したい事って何でしょうか?」
「ルドルフさん、単刀直入にお聞きします。パーティーに遅れたのは、達也の母親が会社を訪ねたからではありませんか?」
「ええ、そうですが・・香織さんは、大橋の母親をご存知なのですか?」
「一応、達也とは親戚ですからね。達也の母親は、あいつがトラブルを起こす度に謝罪行脚を必ずするんです。時には、土下座だってします。幾ら我が子が可愛いからといって、わたしから見たらあいつに甘すぎると思うのですが。」
香織はそう言葉を切ると、運ばれて来たビールを一口飲んだ。
「そうですか、彼女はそんな事を・・香織さん、どうして会社に実里さんが来た事をご存知なのですか?」
「親戚内の事はわたし達の耳にいつも入ってきます。いいですかルドルフさん、今度実里さんが会社に来ても、彼女の相手をしないでください。」
「何故ですか?」
「あの人は自分の言う事を相手が聞いてくれると知った途端、その相手にしつこく付きまとうのです。」
ルドルフは香織の話を聞きながら、会社で自分に平謝りしていた実里の姿が脳裏に浮かんだ。
「何だか想像がつきませんね、貴方が話す実里さんの人柄と、会社で会った時に抱いた彼女の印象が随分と違います。」
「それが彼女の狙いなのです。初対面の相手に好印象を抱かせて警戒心を解き、徐々に本性を現してゆくーこれまで何人か、彼女の被害に遭った人間を知っています。その被害者の一人が、わたし達の母です。」
「社長の奥様が、実里さんに何をされたのですか?」
「あれは三年前の事でした。当時、わたしはまだアメリカの大学に留学中で、家には両親と妹の三人しか居ませんでした。わたしの母はとても穏やかな人で、他人からの頼みを決して断れない人でした。良く言えば優しい人、悪く言えばお人好しな人でした。実里さんと母は年が近く、同じカルチャーセンターで趣味のテニスサークルに所属していた事もあり、仲が良かったのです。実里さんは週に三日位我が家に来ては、サークル仲間達や母にある物を勧めていました。」
「ある物?」
「健康食品です。よくテレビの通販番組で紹介されている、美肌に効くサプリや、痩せるサプリとかを段ボール一箱単位で母達に紹介しては、それを購入するように勧めて、会員になったらこのサプリがタダ同然で手に入ると触れ回っていたようです。」
香織はビールグラスをカウンターの上に置くと、そう言って溜息を吐いた。
「実里さんは人たらしというか、いかにも善人を装って母のような人達の懐に自然に入り込んでくるのです。やがて実里さんのサークル仲間への勧誘が激しくなり、彼女はカルチャーセンターから追い出されました。」
実里がマルチ商法にはまっていた事、そして香織の母親がその標的になっていた事をルドルフは初めて香織から知り、驚愕の表情を浮かべた。
「それから、貴方のお母様はどうなさったのですか?」
「母は実里さんに言われるがままに、彼女と一緒に学生時代の同窓生を勧誘しました。しかし、実里さんから金を搾り取られ、残ったのは多額の借金だけ。母は次第に精神を病み、自ら命を絶ちました。遺書には、わたし達家族への謝罪と、自分が騙した被害者たちへの謝罪の言葉が記されていました。」

香織はそう言うと、鞄からUSBメモリを取り出した。

「これは、実里さんが母を死に追いやった詐欺行為の全てが記録されているものです。」

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22:01  |  オリジナルBL小説「天の華」  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/19(Thu)

天の華 第7話


「大橋さんのお母様でいらっしゃいますか。あの、何故このような時間に会社へ来られたのですか?」
「あの子がこの会社で元気にやっているのか、様子でも見ようと思いまして・・達也は今、何処に居ますか?」
「大橋なら、昼過ぎに帰りました。」
「そうですか。あの子は大学を卒業してから定職に就かずにアルバイト先を転々としておりました。わたしや主人が一人息子だからと散々甘やかしてしまった所為なのでしょうね。」
実里(みのり)はそう言うと、俯いてハンカチを握りしめた。
「どうか達也の事を宜しくお願い致します。」
会社の前でルドルフは彼女と別れると、そのままタクシーに乗ってパーティー会場へと急いだ。
「ルドルフさん、漸く来ましたね!」
会場にルドルフが入ると、知弘が彼の方へ駆け寄って来た。
「仕事を先に片付けてからこちらへ向かおうと思ってね。さっき漸く仕事が終わったところだよ。」
「最近忙しいから、大変ですよね。それよりもルドルフさん、今夜のパーティーに社長の息子さんが出席される事、ご存知ですか?」
「ああ。女子社員達が昼間話しているのを聞いたよ。何でも高校生の頃からアメリカで留学していたとか・・」
「ほら、社長と隣で話している方が社長の息子さんの、香織さんですよ。」
知弘がそう言って大橋社長と談笑している青年の方を指した。
濃紺のスーツに身を包んだ長身の青年は、美しい容貌の持ち主で、切れ長の黒い瞳が印象的だった。
「なかなかの美男子だね。女性達が色めき立つのも無理はない。」
「そうでしょう?香織さんは弱冠20歳でMBAを取得されていますし、かなり優秀だと噂で聞いていますからね。大橋社長は、香織さんを後継者としてこのパーティーにわたし達に対して紹介したいから、彼を出席させたのではないのかと思っています。」
ルドルフが知弘の話を聞いていると、父親と談笑中の香織と目が合った。
「ルドルフ君、随分と遅かったね。」
「仕事を片付けていたら遅くなってしまいました。社長、そちらが噂の・・」
「ああ、倅の香織だ。香織、こちらは営業一課のルドルフさんだ。」
「初めまして。父から貴方のお話は聞いております、大変優秀な方だとか・・」
「いいえ、そんな事はありません。それよりも香織さんがいかに優秀な方であるか、色々とお話は聞いておりますよ。」
「そうですか。」
香織がそう言ってルドルフに微笑んだ時、会場の隅でグラスが割れる音と、客達が何やら騒いでいる声がした。
「一体何があったのでしょうか?」
「少し見てきます。」
ルドルフが、騒ぎが起きている場所へと向かうと、そこには明らかに泥酔した様子の達也と、水色の華やかな花柄の振り袖姿の美織の姿があった。
「一体何があったの?」
「あの子に大橋さんが変な言いがかりをつけて、あの子の振袖にワインを掛けたんです。」
泥酔した達也は意味不明な言葉を喚き散らしながら美織に向かって怒鳴っていたが、彼女は俯いて黙り込んでいた。
「黙ってないで何か言えよ!」
そんな美織の態度に苛立った達也が拳を彼女に向かって振り翳そうとした時、香織が二人の間に割って入った。
「お客様の居る前で何をしているんだ、達也!」
「お前には関係ないだろう!」
「香織はわたしの妹だ。妹に手を出すな。」
香織の口調は穏やかなものであったが、彼が達也に向ける視線は冷たく鋭かった。
周囲の冷たい視線に気づいた達也は、舌打ちするとパーティー会場から出て行った。

「美織、大丈夫か?」
「お兄様、助かりました。」

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2023.10/19(Thu)

天の華 第6話


「何を着て行こうかしら?」
「今夜のパーティーには社長の息子さんもいらっしゃるみたいだから、気合を入れて行かないとね!」
ルドルフが営業一課のオフィスに戻ると、今夜のパーティーの事で雑談する女子社員達の姿があった。
「随分と楽しそうだね、何を話しているの?」
「今夜のパーティーに何を着て行こうかなって、みんなで話をしていたんです。何でも、今夜のパーティーには社長の息子さんがいらっしゃるみたいですし。」
「息子さん?さっき社長室で娘さんとお会いしたけれど、社長に息子さんがおられるなんて初耳だなぁ。」
「ルドルフさんはここに来てまだ日が浅いから、ご存知ないのも当然だと思いますよ。何でもその息子さんは達也さんと同い年で、高校生の頃からアメリカで留学していて、先月帰国したばかりなんですって。」
「そうか・・」
ルドルフは女子社員達の話を聞いた後、今夜のパーティーに出席するという社長の息子について想いを巡らせた。
社長の親族だからといって、彼の息子は達也のような愚鈍な人間ではないだろう。
高校生の頃からアメリカで留学していたという事は、父親との間に何か軋轢(あつれき)があったのではないだろうか―そんな事をルドルフが思っていると、デスクに備え付けの電話が鳴った。
「もしもし、大橋コーポレーション営業一課です。」
ルドルフがそう言って相手の反応を待っていると、受話器の向こうからか細い女の声が聞こえた。
『あの、そちらで働きたいのですけれど・・』
「大変申し訳ございませんが、その件に関しては人事の方にご連絡して頂けないでしょうか?念の為、お名前とお電話番号をお聞かせ願います。」
『すいません、もういいです。』
プツッという音がして電話は切れた。
「どうしました?」
「さっきここで働きたいという電話があってね。そういう事は人事に連絡してくださいって話したら、急に切れちゃったよ。」
「悪戯電話じゃないですか?ここ最近無言電話とか、そういう類のものが多いんですよ。それに、マルチ関連の勧誘電話とかも多いし・・今度そういう電話が来たら、適当に応対して切っておいてください。」
「わかったよ。」

(あの声、何処かで聞いたような気が・・)

ルドルフは自分に電話を掛けて来た女性の声を思い出そうとしたが、仕事に追われて女性の事を思い出す暇がなくなってしまった。

「お先に失礼します。」
「お疲れ様です。」
「お疲れ様、気をつけて帰ってね。」

終業時間となり、社員達が次々と帰っていく中、ルドルフはまだ仕事に追われていた。
漸く仕事が終わり、ルドルフが帰り支度を始めようとした時、一人の女性がオフィスに入って来た。
女性は紺のスーツ姿で、白髪混じりの長い髪をお団子にして纏めていた。
「こちらに何かご用でしょうか?」
「あの、社員の皆さんはまだいらっしゃいますでしょうか?」
「ここにはわたし一人しか居りませんが・・」

怪訝な顔でルドルフが女性の方を見ると、彼女は何処か落ち着かない様子でバッグのストラップを握り締めた。

このままだと埒が明かないので、ルドルフは女性と共に自動販売機がある休憩スペースへと向かった。

「まだお名前を伺っておりませんが・・」
「自己紹介が遅れました、わたくし大橋達也の母の、実里(みのり)と申します。」

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2023.10/19(Thu)

天の華 第5話


「お呼びでしょうか、社長?」
「忙しい時に済まないね、ルドルフさん。そこにかけてくれ。」
社長室にルドルフがノックをして入ると、社長の大橋がそう言って彼に微笑んだ。
「お話とは何でしょうか?」
「実は、こんな事は言いにくいのだが・・今夜、我が社の創立記念パーティーに出席して貰えないだろうか?」
「パーティーですか?」
「ああ・・社員である君に私用は頼みたくなかったのだが、わたしの娘が大層君の事を気に入ってしまってね。今夜のパーティーに招いてくれとうるさくて仕方がないんだよ。」
「そういう事でしたら、喜んでご出席させて頂きます。」
ルドルフの言葉を聞いた大橋は、安堵の表情を浮かべた。
「社長、甥御さんの事でお話があるのですが、今宜しいでしょうか?」
「達也がまた何かしでかしたのか?」
「はい。」
ルドルフが大橋社長に今朝達也が仕事でミスをしたことや、受付嬢と揉めた事を報告すると、大橋社長は渋面を浮かべた。
「まったく、達也には困ったものだ。社長の親族だからといって、あいつがこの会社を継げる訳ではないというのに・・もし次に問題を起こしたら、彼は解雇する。」
「よろしいのですか、そのような事をなさっても?」
「わたしはコネ入社というものが一番嫌いでね。それなのに妹が泣きついて達也をこの会社に就職させてくれって煩くて・・まぁ妹の気持ちは解らなくもないが、こう問題ばかり起こすとなると、解雇の事を考えないといけないな。」
「社長・・」
「そういえば、ルドルフ君は確かハプスブルク財閥の御曹司だったね?どうして会社を継がずに日本で就職したんだい?」
「わたしの父は社長と同様、コネ入社を嫌う人です。会社を継がせてやるから、その日まで海外で修行して来いと言われました。それに、社長の息子だからと周囲から特別扱いを受けるのは嫌でしたので、知り合いが少ない日本に来たという訳です。」
「そうか。達也に君の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだよ。」
「まだまだわたしは社長と比べて未熟者です。」
ルドルフがそう言って大橋社長と笑い合っていると、社長室のドアがノックされた。
「社長、お嬢様がお見えです。」
「わかった、通せ。」
「お父様、失礼いたします。」
社長室に入って来たのは、赤い振袖姿の少女だった。
「美織(みおり)、どうしたんだ?家で何かあったのか?」
「いいえ。お父様にお話ししたいことがあって・・」
少女はそう言った後、大橋社長からルドルフへと視線を移した。
「お父様、そちらの方はどなたなのですか?」
「ああ、こちらは営業一課のルドルフ=フランツさんだ。ルドルフ君、娘の美織だ。美織、ルドルフさんにご挨拶なさい。」
「初めまして、美織と申します。」
「ルドルフです。素敵なお召し物ですね、振袖は加賀友禅ですか?」
「ええ。祖母の形見なのです。ルドルフさんはお着物の事に詳しいのですか?」
「はい、日本の着物や歴史に興味があるので・・」
ルドルフはそう言うと、美織の帯留めに釘付けになった。
それは昔、自分が恋人に贈ったルビーの指輪だった。
「その帯留め、素敵ですね。そちらもお祖母様の物ですか?」
「いいえ、これは曾祖母の物です。何でも、元は指輪だったものを曾祖母が職人さんに頼んで帯留めに作り直したとか・・」
美織がそう言ってルドルフの方を見ると、彼は何処か寂しそうな顔をしていた。
「どうかなさいましたか?」
「いいえ。社長、わたしはこれで失礼いたします。」

大橋社長にそう言って社長室から出て行ったルドルフは、漸く会えた恋人が自分の事を憶えていない事に気づき、人気のない廊下で溜息を吐いた。

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21:57  |  オリジナルBL小説「天の華」  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/19(Thu)

天の華 第4話


社員に差し入れする分の飲み物と食べ物が入った紙袋を提げてルドルフがカフェから出て会社に戻ると、会社のロビーで達也が受付嬢と口論になっていた。

「だから、さっさと金出せって言っているだろう!」
「どうしたの、何かあったの?」
ルドルフが受付嬢にそう声を掛けると、彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。
「あんたには関係ないだろう、引っ込んでいろよ!」
「そうはいかないな。大声で受付嬢を恐喝するなんて、いくら社長の親族でも許されない行為だからね。」
血走った目で自分を睨みつける達也に対して、ルドルフはそう言って彼を睨み返した。
「畜生!」
達也は腹立ち紛れに近くの観葉植物の鉢を蹴ると、そのまま踵を返して会社から出て行った。
「有難うございます、助かりました。」
達也が去った後、彼に恐喝されていた受付嬢がルドルフに礼を言って頭を下げた。
「彼と何があったの?」
「実は、先程休憩をしていたら、誤ってわたしがペットボトルに入ったお茶を、彼が着ていたシャツに掛けてしまったんです。」
受付嬢は時折ハンカチで目元を押さえながらそうルドルフに説明すると、俯いた。
「事故なんだろう?君がわざと彼にお茶を掛けたのならともかく、たまたまペットボトルのお茶が彼に掛かっただけだ。そんなに君が気にすることはないよ。」
「有難うございます・・迷惑を掛けてしまってすいませんでした。」
「謝らないで、君は悪くないんだから。」
「でも・・」
自分に謝ろうとする受付嬢に、ルドルフは自分の名刺を渡した。
「今度あいつが何か言って来たら、連絡して。力になるから。」
「はい。」

「遅くなって済まないね、みんなに差し入れを持って来たよ。」

ルドルフが営業一課のフロアに入り、社員達に差し入れを見せると、彼らは歓声を上げてルドルフの元へと駆け寄って来た。

「有難うございます、助かります!」
「昨夜から何も食べていなかったから、死にそうだったんですよ~!」
「みんなの分はちゃんと買ってあるから、慌てないでね。」
「ルドルフさん、本当に有難うございました。これで嫌な事が忘れられました。」
「それは良かった。それよりもさっき、ロビーで大橋が受付嬢と揉めていたよ。」
「そうですか。大橋はいつも、自分よりも弱い立場の人間を苛めるのが好きなんです。子供の頃から周りの大人達に溺愛されて育ったから、自分の言う事を聞いてくれる人間が大人になった今でも居ると勘違いしているんですよ。」
普段温厚な知弘がそう吐き捨てるような口調で言ったので、ルドルフは思わず彼の顔を見てしまった。
「君は随分と大橋に対して厳しいね。彼とは知り合いなの?」
「ええ、中学一年の時、あいつと同じクラスだったんです。はじめは仲良くしていたんですけれど、次第に彼の我儘(わがまま)な所が嫌になって、絶交したんです。」
「そう・・じゃぁ、大橋の家族の事は知っている?たとえば、彼に年の離れた弟か妹が居るとか・・」
「さぁ、そこまでは知りません。でもお袋だったら何か知っているかもしれません。今度聞いてみます。」
「有難う、宜しく頼むよ。忙しい時にこんなことを頼んでしまって済まないね。」
「いいえ。」

ルドルフが自分のデスクで仕事をしていると、内線電話が鳴った。

「フランツ君、ちょっと来てくれないか?」
「はい、社長。」

社長が自分を呼び出した―その事だけで、ルドルフは嫌な予感がした。

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2023.10/19(Thu)

天の華 第3話


ルドルフにメールをくれた同僚・佐伯静子によると、社員の一人が、誤って作成中のデーターを消してしまったので、現在そのデーターの復旧作業に取り掛かっているのだという。

『それで、データーは完全に復旧できたの?』
『はい。ですが、データーを削除した社員は、眠いからといってさっさと帰宅してしまいました。』
静子の話を聞いたルドルフは、怒りで思わず顔を顰めた。
自分が削除したデーターは、責任を持って自分で復旧するのが当然だというのに、それを他人任せにするとは一体どういう神経をしているのだろうか。
『あの、ルドルフさん?』
『その社員というのは誰?』
『それが・・』

静子は、少し気まずそうな顔をした後、ルドルフの耳元にその社員の名を囁いた。

ルドルフが職場である大橋コーポレーション営業一課のオフィスに入ると、そこではデーターの復旧作業に追われていた社員達がそれぞれ自分のデスクで疲弊しきった表情を浮かべながら目を擦っている姿や、栄養ドリンクを飲んでいる姿があった。
そんな彼らの姿を見ながら自分のデスクへと向かう間、ルドルフはデーターを削除した社長の甥である大橋達也への怒りが少しずつ滾っていくのを感じた。
達也は大学卒業後、就職活動に失敗して親の金を食いつぶしては一日の大半をパチンコやオンラインゲームをして過ごし、定職にも就かずにいる息子の姿を見た彼の両親が、何とかしてくれと親族である叔父に泣きつき、達也はコネでこの会社に入ったのだった。
幼い頃から散々両親や父方、母方の祖父母や親戚達から甘やかされてきた達也は、成人して身体は立派になったものの、その精神は子供のままだった。
達也は社長の甥ということで、会社の花形部署である営業一課に迎えられた。
しかし、今まで親の金を使って暮らしてきた達也に社会人としての常識などなく、仕事も全くできない彼の無能ぶりに上司や同僚達からの評判は悪かった。
その上、自分よりも後輩の社員や派遣社員、清掃員や警備員といった立場の弱い者をいじめていたので、彼らからは蛇蝎(だかつ)の如く嫌われていた。
『ルドルフさん、おはようございます。』
『おはよう。話は佐伯さんから聞いたよ。今朝は大変だったね?』
『いいえ、いつもの事ですから・・』
ルドルフにそう言って笑った平田和弘は、深い溜息を吐いた。
『みんな疲れているようだし、これからカフェで食べ物と飲み物を買ってこようと思うんだけれど、みんなに何がいいのかを聞いてきて欲しいんだ。』
『はい、わかりました!』
和弘はルドルフの言葉を聞いた後、慌ててオフィスに居る社員達に声を掛け始めた。
数分後、ルドルフは会社近くのカフェで社員達に差し入れする分の食べ物と飲み物を購入する為、レジに並んでいた。
ここ数日炎天下が続いた所為か、フラッペやアイスコーヒーを求める客達がカフェをひっきりなしに訪れ、レジへと並ぶ列は徐々に長くなっていった。
ルドルフは和弘から渡されたメモを確認しながら順番を待っていると、カフェの奥の席に、あの少年と達也が向かい合って座っている事に気づいた。
一瞬達也に声を掛けようかとルドルフが彼らの様子を窺っていると、達也が少年を怒鳴りつけ、テーブルに置いてあったコップの水を少年に掛けた後、鞄を持って足早に店から出て行った。

「何あれ。」
「酷~い。」

客達の好奇の視線を浴びながら、全身ずぶ濡れとなった少年はそのままリュックを掴んでルドルフに気づくことなく店から出て行った。

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2023.10/19(Thu)

天の華 第2話


―誕生日おめでとう。

夢の中でルドルフは、恋人にダイヤを鏤めたルビーの指輪を贈った。

“有難うございます。”

恋人は左手薬指に指輪を嵌めると、照れくさそうな笑みをルドルフに浮かべた。

“来年もまた、こうして貴方と誕生日を祝えたらいいですね。”

そう言った恋人の笑顔が、未だにルドルフの脳裏に焼き付いて離れない。
小鳥の囀(さえず)りが窓の外から聞こえ、ルドルフは幸せな夢から覚めた。
冷水シャワーを頭から浴びた後、ルドルフは身支度を済ませて職場へと向かった。
自宅マンションから最寄り駅までの道のりを歩きながら、ルドルフはハンカチで汗を拭い、駅前のコンビニに入った。
「いらっしゃいませ~」
冷房が効いたコンビニの店内に入ったルドルフは、迷わずスポーツドリンクが置いてある棚へと向かった。
お気に入りのスポーツドリンクのペットボトルと、サンドイッチを持ってルドルフがレジで会計を済ませていると、店に一人の少年が入って来た。

その少年は数日前、ルドルフが公園で会った少年だった。

一瞬声を掛けようかどうか迷ったが、少年は一度もルドルフに気づくことなく店の奥へと消えてしまった。
「お客様?」
怪訝そうな顔で自分を見つめている店員に気づいたルドルフは我に返ると、彼の手からペットボトルが入ったレジ袋を受け取った。
駅のホームでレジ袋からペットボトルを取り出したルドルフがスポーツドリンクを一口飲むと、乾いていた身体が潤ってくるのを感じた。

『ただいま一番線に××行の電車が参ります。』
駅内のアナウンスと共に、ルドルフは電車へと乗り込んだ。
通勤・通学ラッシュを少し過ぎた時間帯なので、車内は余り混んでいなかった。
ルドルフが空いている席に腰を下ろすと、鞄の中にしまっているスマートフォンが振動した。

『至急連絡ください』

差出人の名前は、職場の同僚で、メールの内容によると、会社でトラブルが起きたので至急連絡してくれというものだった。
『今出勤している所です、あと十分くらいしたら着きます。』
同僚からのメールにそう返信したルドルフは、スマートフォンを鞄にしまうと職場の最寄り駅に着くまで仮眠を取った。
『間もなく××駅、××駅です。』
ペットボトルの中に入っていたスポーツドリンクを一気に飲み干したルドルフは、職場の最寄り駅で降りて会社へと向かった。
職場であるビルに入ったルドルフがエレベーターホールでエレベーターを待っていると、そこへ何処か慌てた様子で一人の女性がやって来た。
真夏だというのに、リクルートスーツを着込み、長い髪をシニヨンに纏めた彼女の姿を見たルドルフは、彼女が就職活動中の大学生である事に気づいた。
「すいません、お先に失礼します!」
女性はそう言うと、エレベーターが着くなり「閉」ボタンを押した。
ルドルフは女性が去った後溜息を吐くと、数分後に到着したエレベーターに乗り込み、六階のボタンを押した。

『ルドルフさん、大変なんです!』
『どうしたんだい、そんなに慌てて。わたしにも解るように今の状況を説明してくれないか?』

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2023.10/19(Thu)

天の華 第1話


しんしんと静かに降り積もる雪に染まる外の風景を窓から見た少女は、窓から離れ、暖炉の前に置かれているテーブルへと目をやった。
そこには、黒檀のように美しく艶やかな光を放つ拳銃が置かれていた。
今夜、自分は愛しい人と結ばれる為に、この地へと訪れた。
その為に、家族に宛てて遺書を書いた。
「どうしたんだい、浮かない顔をしているね。」
ふと俯いた顔を少女が上げると、そこには慈愛に満ちた蒼い瞳で自分を見つめる青年の姿があった。
「本当に、わたしでよろしいのですか?」
「何を言う。君でしか、出来ない事なんだ。」
青年は甘い言葉を少女の耳元で囁きながら、彼女の華奢な身体を抱き締めた。
「大丈夫、何も怖がることはないよ。これは、わたし達が選んだ道なんだ。」
「はい・・」
少女は落ち着かない様子で、左手の薬指に嵌めている指輪を触った。
その指輪は、青年から贈られた物で、血のように紅いルビーの周りにダイヤモンドが鏤(ちりば)められている。

“結婚指輪の代わりに受け取ってくれ”

青年と恋仲となって何度目かの夜を迎えた後、彼からそんな言葉と共にベルベットの小箱に入ったこの指輪を誕生日の前夜に贈られたのだった。

その指輪のルビーは、暖炉の炎を受けて美しく輝いていた。

「ルドルフ様、わたしは貴方についてゆきます・・何処までも。」
「良かった、君からその言葉を聞けて。」
青年―ルドルフはそう言うと、少女の柔らかな唇を塞いだ。
「ルドルフ様、約束してくださいますか?生まれ変わっても、わたしを愛してくださると。」
「ああ、約束する。」
ルドルフはそう言って少女に微笑むと、彼女ともう一度唇を重ねた。
その時、複数人の足音が廊下から聞こえてきた後、黒服の男達が部屋に入って来た。

「何者だ、貴様ら!」
「ルドルフ皇太子、ハンガリーの為にここで死んで貰う!」

男達の一人がそう言って拳銃をルドルフに向けた。

「ルドルフ様!」

少女は己の身を挺して銃弾から恋人を守った。
全身に激痛が走り、少女の意識は闇へと静かに堕ちていった。
完全に闇に沈む前、ルドルフが自分の名を呼んでくれたが、その時彼女は自分の名すらも判らなくなってしまった。

「約束だ・・約束だぞ、“  ”」

二発目の銃声が、雪に包まれた館の中で響いた。

「皇帝陛下、ルドルフ様が・・皇太子様が、マイヤーリンクで何者かに暗殺されました!」
「何だと!?」

1889年1月30日未明、オーストリア=ハンガリー帝国皇太子・ルドルフは、ウィーン郊外のマイヤーリンクにある狩猟小屋にて、謎の拳銃自殺を遂げた。
この出来事は「マイヤーリンク事件」と名付けられたが、事件の真相は100年以上経った現在でも明らかにされていない―


夏の陽射しを受け、微かに目を細めて天を仰ぐと、そこには青空が広がっていた。

湿気を帯びた熱風が吹き、ルドルフの白皙の肌に汗が一筋滴り落ちた。

生まれ故郷から遠く離れたこの地で暮らしてから数年が経つが、うだるような夏の暑さには未だに慣れない。
ハンカチで汗を拭きながら自宅があるマンションまで歩いていると、近くの公園から子供達のはしゃぐ声が聴こえてきた。
ふと彼らの声に耳を澄ませながら、ルドルフは静かに目を閉じた。

“ルドルフ様”

愛おしそうに自分の名を呼ぶ恋人の姿が一瞬脳裏に浮かんだが、それは目を開けると煙のように掻き消えてしまった。

“ルドルフ様、約束してくださいますか?生まれ変わっても、わたしを愛してくださると。”

最期の時を過ごしたマイヤーリンクの館で、恋人と交わした約束は、未だに果たせないでいる。

一体、何処に居るのだろう。

あれから100年以上もの歳月が経ったのだ、もう自分の事など忘れているだろう。
そんな事を思いながらルドルフが再び自宅に向かって歩いていると、彼の前に一人の少年が現れた。

「あの、これどうぞ・・」

そう言った少年の手には、ペットボトルの清涼飲料水が一本握られていた。

「さっき公園で見かけて、少し辛そうでしたので・・」
「有難う、助かるよ。君、名前は?」
「僕ですか、僕は・・」

少年が自分の名を言おうとした時、彼が制服の胸ポケットに入れているスマートフォンがけたたましく鳴った。

「すいません、もう行かないと・・」
「おい、待て!」

ルドルフが引き留める間もなく、少年はルドルフに背を向けて何処かへと行ってしまった。

(変な奴だったな・・)

自宅マンションのエントランスに入り、エレベーターを待っていたルドルフがそう思いながら先ほどの出来事を思い出していた。
見知らぬ少年―だが彼と会った瞬間、何故か彼とは初対面ではないような気がしてならなかった。

(まさか、な・・)

あの少年が、自分の恋人の生まれ変わりの筈がない―ルドルフはそう自分に言い聞かせながら、エレベーターに乗り込んだ。

その日の夜、彼は久しく見ていなかった前世の夢を見た。

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2023.10/17(Tue)

蒼い蝶 第二話



シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。

性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。

「姫様・・」
「だから、その気色悪い呼び方は止めろ!僕には、シエルという名がある!」
「では、シエル様とお呼びした方が良いのですか?」
「好きにしろ!」
そう言って耳まで赤く染めるシエルの姿は、“昔”から変わっていなかった。
(ここが、すぅぱぁですか。わたしが知らぬ間に世の中は便利になったものですね。)
「早く来い!」
「はいはい、わかりましたよ。」
シエルがスーパーで買い物を終え、店の外へと出た時、突然雷鳴が轟き、雨が降り始めた。
「ついてないな。」
「雨は、止みますよ。」
そう言ったセバスチャンの横顔は、何処か悲しそうだった。
「セバスチャン・・」
「あ、シエルじゃん!」
「買い物?てか隣の人、誰?」
セバスチャンと雨が止むのを待っていたシエルは、クラスメイト達から話し掛けられ、顔を強張らせた。
「初めまして。わたしはシエル様の遠縁の従兄で、セバスチャン=ミカエリスと申します。」
そう言ってシエルのクラスメイト達に笑みを浮かべたセバスチャンだったが、目は全く笑っていなかった。
「あ、どうも・・」
「シエル、またな!」
クラスメイト達が去った後、セバスチャンはそっとシエルの手を握った。
「大丈夫ですか?」
「あぁ・・」
シエルの手を握った時、セバスチャンの脳裏に、学校で孤立しているシエルの姿が浮かんだ。
―気味が悪い子ね。
―本当。
母親の葬儀で、一人親族席に座り、親族達の陰口に耐えるシエル。
―どうするのよ、あの子?
―仕方無いだろ、他に引き取り手がないんだから。成人するまでの辛抱だ。
引き取られた伯父一家に煙たがられるシエル。
(あなたは、今まで辛い思いをしてきたのですね。)
震えるシエルの小さな肩を抱き締めたい衝動に駆られたが、セバスチャンはそれをぐっと堪えた。
「どうした?」
「いいえ、何でもありません。」
雨は、夜になっても止まなかった。
「セバスチャン、どうした?お前、さっきからおかしいぞ?」
「いいえ。ただ、昔の事を思い出してしまって・・」
「昔の事?」
「えぇ。シエル様は、戊辰戦争をご存知ですか?」
「まぁ、少しだけなら・・」
この町は、戊辰戦争時に旧幕府側として参戦し、家臣達やその家族は、藩主と共に運命を共にしたという。
白虎隊や娘子隊の悲劇などは、百五十年以上もの歳月が経った今でも語り継がれている。
「わたしは昔、ある藩の藩士だったのです。昔の貴女・・呼び方が紛らわしいので、ここでは、妻としますね。妻は、わたしとは幼馴染でした。あの戦の時、妻は家族と共に自害しましたが、急所を外して苦しんでいました。その時、わたしが妻の介錯をしました。」
介錯、という言葉を聞いたシエルは、生まれつき首に残っている火傷のような痣を無意識に触っていた。
「わたしもその場で自害しようと思いましたが、官軍の捕虜になってしまって・・その後の事は、憶えていません。」
「そうか。漸くこの痣の謎がわかった。セバスチャン、お前は僕の事を、“昔”の僕と重ねて見ているのか?」
「未練がましいでしょう?でも、あなたと再び会えて嬉しいと思っているんですよ。」
「そうか・・」
シエルがセバスチャンの言葉を聞いて照れ臭そうに笑った時、突然締め切っていた縁側の雨戸が勢いよく開かれた。
「漸く会えたね、仔猫ちゃん。」
そう言った銀髪の妖狐は、黄緑色の瞳でシエルを見つめた。
「何だ、貴様は!?」
「誰かと思ったら、あの時の侍かい。今世でもこの子を娶るつもりなのかい?」
「シエル様、お下がりください!」
「ヒッ、ヒッ、そんなに警戒する事ないだろう?小生はただ、仔猫ちゃんの顔を見に来ただけさぁ。」
妖狐は黒く細長い爪を伸ばすと、その先でシエルの頬を撫でた。
「あぁ、やっぱり君の霊気は冷たくて気持ち良いねぇ~」
「いい加減、わたしの姫様から離れて下さいませんか?」
「嫉妬する男は見苦しいよぉ~」
二人の男達に挟まれ、シエルは堪らず二人に向かって怒鳴った。
「うるさ~い!」
伯父一家がハワイ旅行から帰って来たのは、夏祭りまであと一週間を切った頃だった。
「お邪魔しま~す!」
「あら、いらっしゃい。シエル、お友達が来たわよ~!」
「はい・・」
シエルが玄関先へとそこにはスーパーで自分に声を掛けて来たクラスメイト達の姿があった。
「僕に何の用だ?」
「これからみんなで肝試しに行くから、一緒にどうかなって思って。」
「肝試し?」
「ほら、近くの林の奥に、廃神社があるだろ?あそこ、出るんだってさ。」
シエルはクラスメイト達からの誘いを断ろうとしたが、無理矢理彼らに廃神社まで連れて行かれた。
「うわぁ、不気味な所だなぁ。」
「本当に出たりして。」
クラスメイト達がそんな事を言いながらはしゃいでいると、社の奥から不気味な笑い声が聞こえて来た。
「今のは・・」
「やっぱり出た~!」
「おい、待て!」
笑い声を聞いたクラスメイト達は、蜘蛛の子を散らすかのように廃神社から逃げていった。
「笑い声ひとつで怯えるなんて、今時の子供は軟弱ですね。」
「セバスチャン、どうして・・」
「ここに居るのかって?あなたの事が心配で、こっそりと後をつけて来たのですよ。」
セバスチャンはそう言うと、シエルを横抱きにして廃神社の奥へと向かった。
「ここでいいでしょう。」
「何をする気だ?」
セバスチャンがシエルを連れて行ったのは、廃業したと思しきモーテルだった。
そこは、モーテルといっても建物はなく、代わりにトレーラーハウスが点在している所だった。
セバスチャンはトレーラーハウスの中に入ると、ベッドの上にシエルを寝かせた。
「何をって、ナニをですよ。」
セバスチャンは慣れた手つきでシエルの服を脱がせると、その小ぶりな乳房と乳首にしゃぶりついた。
「あっ、いやぁっ・・」
「そんな事を言っている割に、ここは濡れているようですが?」
セバスチャンがそう言いながらシエルの膣を弄っていると、そこから甘い雫が滴り落ちた。
「セバスチャン・・」
「力を抜いて下さい。」
「あぁ~!」
セバスチャンのモノが、シエルの子宮を深く穿った。
「そんなにわたしを締め付けて、感じているのですか?」
「言うなぁっ!」
「動きますよ。」
「ひぃっ!」
セバスチャンはシエルの両足を己の両肩に掛けると、腰の動きを速めた。
「いじめてしまいましたね。」
セバスチャンに激しく責められ、気絶してしまったシエルの身体を清めながら、セバスチャンは溜息を吐いた。
「ハァ~イ、ちょっとお邪魔するよぉ。」
「またあなたですか。」
セバスチャンが少し苛立ったような顔を妖狐に向けると、彼はセバスチャンの羽織の下に隠されているシエルの下半身を見ようとしたが、セバスチャンに阻まれた。
「独占欲丸出しなのは、昔から変わってないねぇ。」
「一体、何の用なのですか?」
「いえね、最近仔猫ちゃんを狙っている輩がこの辺をうろついているみたいだから、君に伝えておこうと思ってねぇ。」
「それはわざわざどうも。」
「まぁ、あいつは人だねぇ。でも、危険な臭いと気配がするんだよねぇ。」
夏祭りの前夜祭当日の朝、シエルの元に町の呉服屋がやって来た。
「ご注文の品を持って参りました。」
「おい、こんなに注文しなくてもいいだろう?」
「何をおっしゃるのです、シエル様は祭りの間だけでも着飾って頂かなければ、この町の沽券に関わります。」
「そうよシエル、あなたも年頃の娘なんだから、お洒落しないと。」
「あぁ、わかった・・」
今まで、シエルは己の“呪われた”身体の所為で着飾る事をしなかった。
「さぁ、わたしが化粧をしますから、目を閉じて。」
「わかった・・」
セバスチャンに化粧をされ、かつらをつけた自分の顔を鏡で見たシエルは、驚きの余り絶句した。

(これが、僕・・?)

「あ、出て来たぞ!」
「可愛らしい巫女さんだねぇ。」
「本当に。」

神社の境内に現れた巫女装束姿のシエルを、一人の男が鼻息を荒くしながら望遠レンズをつけたカメラで連写していた。

(嗚呼、何て可愛いんだ!)

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2023.10/17(Tue)

蒼い蝶 第一話


シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。


蝉の鳴き声が、暑さを加速させる。

不破シエルは、酷暑の中自転車で学校へと向かっていた。
明日から夏休みだが、この酷暑の中を自転車で自宅から学校へと往復するのは辛い。
「あ~、疲れた。」
シエルはそう呟きながら、自転車を自転車置き場に停めると、一羽のカラスが彼に近寄って来た。
「何だ、お前は?あっちへ行け!」
シエルが手でカラスを追い払うと、カラスは悲しそうな声で鳴いた。
(全く、今日はついていない!)
夏休みに大量の宿題が出されるわ、自転車のタイヤが坂道でパンクするわで、シエルにとっては災難な一日だった。
シエルは苛立ち紛れに祠を軽く蹴飛ばし、その場から立ち去ろうとした。
だがその時、一人の男が、シエルの進路を塞いだ。
彼は漆黒の羽根を広げ、じっと暗赤色の瞳でシエルを見つめた。
「あなたが、わたしを呼んだのですか?」
「お前、誰だ?」
「わたしは、この祠に祀ってあった神ですよ。あなた、微力ながら霊力がありますね。」
「まぁな・・」
シエルは、日本人の母と英国人の父との間に産まれた。
父は早くに亡くなってしまったと母から聞かされていたが、その母も交通事故で亡くなってしまった。
母の死後、シエルは母方の親戚に引き取られ、宮司を務めている伯父の神社の手伝いをしている。
その時、伯父からシエルは母の血筋―巫女の霊力をひいていると言われた事があった。
その所為か、シエルは幽霊や妖怪など、“人ならざるもの”が視えてしまうのだ。
まぁ、それで一度も困った事はないし、幽霊よりも生きている人間の方が怖いので、シエルはその力がある事を気にしていなかった。
だが、今自分の前に居る男の存在は邪魔で仕方ないので、シエルは男に声を掛けた。
「おい、邪魔だからそこを退け。」
「おやおや、生意気なガキですねぇ。目上の人間に対して口の利き方がなっていませんね。」
「いいから、退け!」
イライラしたシエルは男を押し退けようとしたが、彼はビクともしなかった。
「“お願いします”は?」
「お願いします・・」
男はそう言って笑うと、シエルに道を譲った。
(変な奴に絡まれたな。)
シエルがそう思いながら帰宅すると、伯父達の姿は家の中になかった。
『ハワイに行って来ます、留守番よろしく!』
リビングのダイニングテーブルの上に置かれたメモを見たシエルは、溜息を吐いた。
伯父一家が五泊六日のハワイ旅行に行った事を、シエルはすっかり忘れてしまっていた。
冷蔵庫の中には簡単に調理できる食材があるので食べる物には困らないのだが、問題は一週間後に開かれる夏祭りの準備をどうするかだった。
都会と比べて、娯楽が少ない田舎にとって夏祭りは、一大イベントなので、準備にも気合が入る。
シエルはこれまで夏祭りの準備に余り関わらなかったが、これからは町民の一員として無視出来ないので、今から夏祭りの準備を考えると憂鬱で仕方なかった。
エアコンが効いた室内で夏休みの宿題を片づけていたシエルは、誰かがこの家に近づいて来る気配を感じた。
「誰だ、そこに居るのは?」
「漸く見つけたぞ。」
シエルは、家に侵入して来た鬼に押し倒されていた。
「“鬼姫”、積年の恨み、ここで晴らしてくれようぞ!」
「汚い手で、わたしの姫様に触らないで下さい。」
頭上からバリトンの美しい声が響いた後、シエルに覆い被さっていた鬼の首が鮮血を噴き出しながら中庭へと転がっていった。
「お前は、あの時の・・」
「漸く見つけましたよ、姫様。」
そう言ってシエルを抱き締めたのは、漆黒の羽根を広げた男だった。
「さぁ、わたしの名を呼んで。」
―セバスチャン
「セバスチャン・・」
「良く出来ました。姫様には、ご褒美をあげましょうね。」
男―セバスチャンは、そう言うとシエルの唇を塞いだ。
「んっ・・」
ファーストキスを奪われたシエルだったが、セバスチャンのキスは甘くて美味しかった。
「もう、止めておきましょうか?」
「・・続けろ。」
セバスチャンとキスをしている内に、シエルは身体の奥が甘く疼くのを感じた。
「もっと欲しいのですか?」
セバスチャンの問いに、シエルは静かに頷いた。
「欲張りな方ですね。」
シエルの脳裏に、何処か懐かしい光景が浮かんだ。
―セバスチャン、ごめんね。
シエルは、何処か悲しそうな顔を浮かべているセバスチャンの頬を撫でた。
―また、会える事があったら・・
「ん・・」
シエルが目を覚ますと、隣には裸のセバスチャンが眠っていた。
朝の静寂は、シエルの悲鳴で破られた。
「な、何で・・どうして、僕が・・」
「あなたが望まれたからですよ。」
セバスチャンはそう言いながら、シエルの髪を撫でた。
「お身体は、辛くないですか?」
「あぁ、それよりもお前、どうして僕の家に居る?」
「それは、わたしがあなたの背の君だからですよ。」
「蝉?」
「蝉ではありません、わたしはあなたの夫です。」
「ふざけるな~!」
シエルの怒声は、隣町の集落まで響いた。
「ヒッ、ヒッ、ヒッ、良い目覚まし時計代わりになったねぇ。」
長い銀髪と九本の尻尾をなびかせながら、一匹の妖狐がそう言ってシエルが居る集落の方を見た。
「可愛い仔猫ちゃんと会うのが楽しみだねぇ。まぁ、恋敵が居るようだけど、小生は負ける気はしないけれど。」
(一体何なんだ、あいつは!いきなり現れて、勝手な事を言って・・)
シエルはシャワーを浴びながら、自分の首筋から胸元にかけて散らばったキスマークに気づいて頬を赤らめた。
「おはようございます。本日の紅茶はアールグレイ、ティーカップはウェッジウッド、朝食はハムエッグのコブサラダ添えでございます。」
リビングに入ったシエルを、セバスチャンは笑顔で迎えた。
「お前、僕はまだこの家にお前を置くと決めた訳じゃないぞ。」
「つれない事を言うのですね。昨夜はあんなに愛し合ったというのに。」
「やめろ!」
シエルはセバスチャンが作った朝食を食べ終えると、駅前にあるスーパーへと向かった。
「姫様、こちらを。」
「その呼び方を止めろ、気色悪い!」
「それは申し訳ございません。」

そう言いながらシエルの頭上に日傘をさすセバスチャンの姿を、シエルのクラスメイト達が見ていた。

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07:38  |  蒼い蝶  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/15(Sun)

ヒバナ 2


海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。

「うわっ、最悪・・」
ナースステーションで下腹部の鈍痛に襲われた海斗がトイレに入ると、経血が下着とスラックスを汚していた。
「カイト、どうした?」
「何でもない・・」
汚れた下着とスラックスを脱いで、清潔なスラックスと下着に着替えた後、海斗は時折襲って来る生理痛に顔を顰めながら仕事をしていた。
「体調が悪いなら、休んでいいぞ。」
「うん、そうする。」
ジェフリーからそう言われて、海斗が椅子から立ち上がろうとした時、急に目の前が暗くなった。
「メイト、カイトは?」
「おかしらの部屋でさぁ・・」
ナイジェルが船長室に入ると、海斗は苦しそうに息を吐いていた。
「カイト、どうした?」
「お腹、痛い・・」
「カイト!?」
「嫌だ・・赤ちゃん・・」
「しっかりしろ、カイト!」
海斗が目を開けると、そこは病室のベッドの上だった。
(俺、どうしてここに・・)
「目が覚めたみたいだね?」
そう言って海斗の顔を覗き込んだのは、この病院で監察医をしているラウル=デ=トレドだった。
「酷い奴だね、君を流産させた男は。」
「流産?」
「どうやら、君はわからなかったみたいだね。まぁ、初期中の初期だから気づかなかったのは当然だけど。」
ラウルはそう言って笑うと、海斗の病室から出て行った。
「カイト、もう大丈夫か?」
「うん・・」
ジェフリーが病室に入って来たのを見た海斗は、何故か泣きそうになった。
「どうした?」
「少し、気分が・・」
「お前は本調子じゃないから、ゆっくり休め。何かあったら、PHSを鳴らせ。すぐに駆け付けてやるから。」
「うん・・」
ジェフリーが暫く海斗の髪を撫でてやると、彼女はやがて寝息を立てて眠り始めた。
「カイトの様子はどうだった?」
「ゆっくり病室で眠っている。」
「そうか。ジェフリー、今夜時間あるか?お前に話したい事がある。」
「ああ、わかった。」
その日の夜、ジェフリーは親友と共にロンドン市内にあるステーキハウスで夕食を取った。
「へぇ、いつの間にこんなにステーキが美味い店が出来たんだ?」
「半年前だそうだ。」
「そうか。ここのステーキは絶品だ。昔食べていた塩漬け肉よりいい。」
「ジェフリー、お前もしかして前世の記憶があるのか?」
「ある。だからお前とこうして会えて嬉しかったよ、ナイジェル。」
「俺もだ、ジェフリー。それよりも、カイトとは何処で会った?」
「今朝、地下鉄で会ったばかりだ。それがどうかしたのか?」
「いや・・」
海斗に前世の記憶があるのかを、ナイジェルはジェフリーに尋ねたかったが、しなかった。
「なぁ、カイトとは昔、何処かで会った気がするんだ。十六世紀じゃなくて、現代で。」
「思い出せないのか?」
「あぁ。」
ジェフリーはそう言うと、あっという間にステーキを平らげた。
「開腹手術をした後に、良く食えるな。」
「医者は体力が命の仕事だ。いつも少し湿気たスナック菓子や土の味しかしないサラダばかり食っているから、久し振りの肉はちゃんと食っておかないとな。」
「そうだな。」
「さてと、今夜はエールで乾杯するか。」
「あぁ。」
二人が再会を祝してエールで乾杯している頃、ラウルはロンドン市内にあるクラブに居た。
「はい、これ。」
「済まないな。」
「それにしても、あなたがこんな所にわたしを呼び出すなんて、意外ですね。」
ラウルはそう言うと、自分の向かい側に座っている男―ビセンテ=デ=サンティリャーナを見た。
「ここだと、雑音で気が紛れるからな。」
「へぇ・・」
ラウルはそう言うと、シャンパンを飲んだ。
「お前も、こんな情報をわたしに与えるなど、どういった風の吹き回しだ?」
「別に。所詮虫ケラの癖に金の力で威張っているクズには、我慢ならないだけさ。」
ラウルはそう言うと、クラブを後にした。
「ん・・」
海斗が病室のベッドから起き上がると、窓の外に映る空が少し白み始めていた。
その空を見ながら、海斗は、“あの日”の事を思い出していた。
あの日、海斗は唯一無二にして生涯の伴侶・ジェフリーを失った。
最期を看取れた事が、唯一の救いだったかもしれない。
「起きてよ、ジェフリー、起きて・・」
船長室のハンモックに寝かせられたジェフリーの死に顔は、まるで眠っているかのような安らかな顔をしていた。
だが、どんなに海斗がジェフリーの身体を揺すっても、彼は二度と目を覚まさなかった。
「ジェフリー、起きてよ。あなたの子が、もうすぐ産まれて来るんだよ。」
海斗は、そう言いながらまだ目立っていない下腹を撫でた。
この戦いが終わったら、ジェフリーの忘れ形見であるこの子を育てよう。
ジェフリーの分まで、この子を育てて見せる―そう思った海斗に、突然激痛が襲った。
「カイト、どうした!?」
「嫌だ、赤ちゃん・・」
ナイジェルが海斗の下腹部を見ると、そこからはおびただしい血が流れていた。
ジェフリーと、お腹の子を喪った海斗は、生きる屍となった。
「カイト、少しだけでもいいから食べてくれ。」
「要らない。」
「カイト、辛いのはわかるが・・」
「もう、俺の事は放っておいてよ!」
「わかった・・」
何も食べず、寝たきりの生活を送った海斗は免疫力が著しく低下し、二十一世紀に治した筈の肺結核に罹り、ナイジェルに看取られ、安らかにジェフリーの元へと旅立った。
再び二十世紀の世に生を享けた海斗は、医療を本格的に学んだ。
医師ではなく看護師の道を選んだのは、受験勉強中に十九世紀末にクリミア戦争で活躍した、フローレンス=ナイチンゲールの伝記を読み、感銘を受けたからだった。
外国で看護師として働く生活はハードだったが、仕事はやりがいがあった。
「カイト、まだ休んでいなくていいのか?」
「うん。アロンソ先生から退院の許可を貰ったから。」
「そうか。一緒にランチでもしないか?」
「いいよ。」
海斗とジェフリーがそんな話をしていると、緊急救命室の電話が鳴った。
『ハムステッドのスーパーで銃撃事件発生。負傷者多数。』
「どうやら、ランチはお預けのようだな。」
「仕方無いよ、仕事だもん。」
海斗がそう言った時、一人の男が彼女を背後から抱き締めた。
「カイト、漸く会えた!わたしの守護天使!」
「ヴィンセント・・」

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2023.10/15(Sun)

ヒバナ 1


海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。


人々の悲鳴と怒号が飛び交う中、東郷海斗は只管愛しい人を捜していた。

(ジェフリー、どうか無事で居て!)

戦では、人の命は奪われ、死は性別・人種・身分関係なく平等に訪れる。
それは、ジェフリーも例外ではない。
だが、海斗は、ジェフリーが無事である事を祈った。
「カイト・・」
「ナイジェル、無事だったの!ジェフリーは?彼は何処?」
「カイト、落ち着いて聞いてくれ、ジェフリーは・・」
ナイジェルの悲痛に満ちた表情を見た海斗は、彼が何を言おうとしているのかがわかった。
「ジェフリーが、お前を呼んでいる。」
「そんな・・」
「俺だって、あいつが死ぬなど耐えられない。だがこれは、現実なんだ。」
海斗は、ナイジェルに連れられ、ジェフリーの元へと向かった。
「ジェフリー・・」
「カイトか・・」
苦しそうに息をしたジェフリーは、海斗の頬を優しく撫でると、静かに息を引き取った。
「嫌だ、ジェフリー、起きてよ!」
(また、嫌な夢を見たな。)
枕元でけたたましく鳴る目覚まし時計を止めた海斗は、眠い目を擦りながら紅茶を淹れた。
一人暮らしを始めてまだ一週間も経っていないが、家族と気まずい時間を過ごすよりも、一人で気楽に過ごす方が心地良かった。
朝食は、近所のスーパーで買ったベーグルサンドとヨーグルトだった。
(さてと、今日も頑張るか。)
海斗は朝食を済ませると、職場へ向かった。
朝のロンドンは、通勤客が忙しなく行き交っていた。
電車に乗り込んだ海斗が欠伸を噛み殺していた時、乗客の老人が突然胸を押さえて床に倒れた。
「大丈夫ですか!?」
海斗は背負っていたリュックを枕代わりに老人の頭の下に敷くと、老人の呼吸と脈拍を確めた。
(呼吸が早い・・胸を押さえていたって事は、心臓か?)
「どうした?」
突然頭上から声を掛けられ、海斗が俯いていた顔を上げると、そこには金髪碧眼の美男子が立っていた。
「急にこの人が、胸を押さえて倒れて・・」
「そうか。」
男はそう言うと、電車に設置してあるAEDを手に取った。
「使い方はわかるか?」
「はい!」
「そこの人、消防に連絡してくれ!」
やがて電車は駅に到着し、老人は病院に搬送され一命を取り留めた。
「さっきはありがとうございました。俺が一人だったら、どうなっていたか・・」
「さっきは手際が良かったな。もしかしてお前、俺と“同業者”か?」
「“同業者”?」
「お前、名は?俺はジェフリー=ロックフォード、医者だ。」
「俺は東郷海斗、イングランド大学病院で看護師をしているよ。」
「イングランド大学病院か。奇遇だな、俺の職場もそこだ。」
「そうなんだ・・」
海斗は、何処かジェフリーとの出会いに運命のようなものを感じた。
「ここで出会ったのも何かの縁だ、よろしくな、カイト。」
「こちらこそよろしくね、ジェフリー。」

ジェフリーと共に職場へと向かった海斗は、ナースステーションで先輩看護師達から質問責めに遭った。

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16:22  |  ヒバナ  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/15(Sun)

オレンジ 2


一部震災描写有ります、苦手な方はご注意ください。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

避難所での生活は、過酷だった。
電気・水道といったライフラインが使えなくなり、その上体育館で仕切りが無いすし詰め状態での生活は、人々の心を徐々に疲弊させていった。
「海斗、どうしたの?」
「ちょっと、アレが始まったみたい。」
海斗は、男女両方の性を持って生まれて来た。
その所為か、月経の周期が不安定で、それに備えて自宅に生理用品を備蓄していたのだが、友恵が自宅から車で持ち出せたのは段ボール二箱分だけだった。
「大丈夫なの?」
「うん。タンポンを多めに持っているから・・」
「そう。ねぇ海斗、これからあなたどうするの?こんな事は言いたくないけど、スケート靴やフェンシングの道具以外は全て流されてしまったし、生活を立て直すには時間がかかると思うの。だから・・」
海斗は、友恵が自分に何が言いたいのかがわかった。
「母さん・・」
「家族と離れて暮らすのは辛いけれど、仕方無いと思うのよ。」
「うん・・」
海斗は、親族が住む横浜へ、家族と離れて暮らす事になった。
「元気でね。」
「母さん達も、元気で。」
故郷を離れ、横浜で海斗は新生活を始め、スケートとフェンシングの練習を再開した。
しかし、震災前に難なく跳べていたトリプルアクセルが、全く跳べなくなっていた。
「カイト、焦っては駄目よ。」
「うん・・」
コーチのリリーからそう言われたが、海斗は次第にストレスと不安で眠れなくなった。
(これから、どうなるんだろう・・)
環境の変化に伴うストレスで、いつしか海斗は大好きだったスケートが出来なくなっていた。
「ただいま・・」
疲れた身体を引き摺りながら海斗が親族宅へと帰ると、玄関先に見慣れない男物の靴が置かれている事に気づいた。
「海斗ちゃん、こちらは弁護士のビセンテさん。」
『はじめまして。』
『はじめまして・・』
「あなたの、お婿さんよ。」
「えっ!」
母方の伯母の言葉を聞いた海斗は、その場で固まったまま動けなくなってしまった。
『では、わたしはこれで失礼致します。』
ビセンテが去った後、伯母は海斗に向かってこう言った。
「海斗ちゃん、良い人そうで良かったわねぇ。」
「伯母さん、俺は結婚なんてまだ考えてない!」
海斗がそう言って伯母を見ると、彼女は笑った。
「高校を卒業したら、海斗ちゃんには家を継いで貰わないとね。」
「母さん達には、この事は話したの?」
「いいえ。でも、海斗ちゃんの将来の為なのよ。」
「俺は結婚なんてしたくない!まだやりたい事が沢山あるし、大学だって行きたい!」
「女の子が賢くなったら、嫁の貰い手がなくなるじゃないの~。海斗ちゃんには、幸せな結婚をして、家の事をしっかりして貰わないと~」
海斗は伯母の話を聞きたくなくて、家から飛び出した。
両親はいつも自分のやりたい事をさせてくれたし、応援してくれた。
それなのに、どうして伯母は勝手に海斗の意思に関係なく、海斗の人生に干渉するのだろう。
「あら、どうしたの?」
「リリー、今夜泊めてくれない?」
「その様子だと、訳有りみたいね?」
家を飛び出した後、海斗はリリーの自宅で彼女に伯母の話をした。
「酷いわね。その人の頭はアンモナイトか何かかしら?」
「もう、伯母さんとは暮らせない。母さん達に話してみる。」
「そうしなさい。」
海斗がリリーと暮らし始めて一週間が経った頃、友恵が横浜にやって来た。
友恵は、海斗から伯母の話を聞くと烈火の如く怒った。
「あなたは何も心配しなくていいわ。今まで通り、スケートとフェンシングを頑張りなさい。」
海斗は友恵達と横浜で暮らせるようになった。
「良かった。前よりもジャンプの精度が上がったわね。」
「ありがとう、リリー。」
「休憩にしましょう。余り無理をすると、身体に悪いわよ。」
「わかった。」
海斗がリンクサイドで休憩を取っていると、突然リンクが黄色い悲鳴に包まれた。
(何?)
海斗がリンクの方を見ると、そこには金髪碧眼の美男子が、優雅に氷上を舞っていた。
「カイト、どうしたの!?」
急にリンクの中央へと向かっていった海斗を見て慌てたリリーだったが、彼女の隣に居る男に気づいた。
「ジェフリー、やっと会えた!」
「カイト、俺も会いたかった。」
感動の再会を果たした二人は、スケートリンクを後にして、カフェで互いの事を話した。
「ジェフリー、今どんな仕事をしているの?」
「聞いて驚くなよ、俺は今も“私掠船乗り”―海軍だ。」
「へ~、凄い!スケートは何処で習ったの?」
「趣味で習い始めたんだ。」

(ジェフリー、変わらないな・・)

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2023.10/15(Sun)

オレンジ 1


一部震災描写有ります、苦手な方はご注意ください。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

遠くから、波の音が聞こえて来る。

―カイト。

誰かが、自分の名を愛しそうに呼ぶ声で、東郷海斗は夢から覚めた。
「また、あの夢か・・」
彼は溜息を吐きながら、ベッドから起き上がった。
「おはよう、海斗。」
「おはよう、母さん。」
「今日は朝練でしょう、遅刻しないようにね。」
「はぁい。」
海斗は母親が作った弁当をリュックに入れると、自転車で学校へと向かった。
海沿いの道を彼女が自転車を走らせていると、彼女の脳裏にある光景が浮かんだ。
―カイト、危ないから下がっていろ!
―ジェフリー!
いつも自分を守ってくれた、美しい金髪碧眼の恋人。
彼は今、何処に居るのだろう。
(まだ、誰も来てないな。)
フェンシング部の更衣室に入った海斗は、制服からフェンシング用のウェアに着替えた。
フェンシングを海斗が始めたのは、前世の記憶を思い出した、五歳の頃だった。
その時、海斗は家族と旅行で伊勢志摩にある有名なテーマパークに来ていた。
そこは、スペイン各地を再現した所だった。
最初は全く興味が無かった海斗だったが、それはある物を見て変わった。
それは、大航海時代に活躍したガリオン船だった。
その船を一目見た瞬間、海斗の脳裏に前世の―海賊達と過ごした日々の事を思い出していた。
急に泣き出した海斗に、友恵は慌てた。
その日から、海斗は前世の夢を見るようになった。
「フェンシングを習いたい?」
強くなってジェフリーを―恋人を守りたいと海斗は思うようになった。
フェンシングを習い始めた海斗は、めきめきと頭角を現していった。
「なんだか、あの子段々変わったわね。」
「そうか?スケートの方も順調だし、このままだと夏と冬の五輪出場も夢じゃないな。」
「もう、パパったら。」
前世でもそうだったが、現世でも東郷家は裕福だった。
しかし、父・洋介は仕事人間ではなく、母・友恵も高慢な性格ではなかった。
冷え切った、居心地の悪い家庭とは正反対の環境に育った海斗は、第二の人生を謳歌していた。
愛する人が傍に居ない事と、ある秘密を持っている事以外は。
「ジェフリー、何を見ているんだ?」
「ナイジェル、来ていたのか。」
ジェフリーがスポーツジム内にあるプールでひと泳ぎした後、プールサイドのベンチに横になってある動画を観ていると、そこへナイジェル=グラハムがやって来た。
「カイト、カイトなのか!?」
「あぁ、間違いない。」
ジェフリーのスマホの画面には、美しく氷上を舞っている海斗の姿があった。
「フェンシング全日本女子チャンピオンか・・どうやら俺達と別れた後、カイトは逞しくなったようだなぁ。」
「あぁ。」
「近々仕事で日本に行くから、その時にカイトに会いたいな。」
「きっと会えるさ。」
(う~、寒い!)
春先だというのに、ここはまだ雪が降っていた。
「海斗君、バイバイ~!」
「バイバイ~!」
海斗が練習を終えて自転車で自宅へと帰ろうとした時、激しい揺れが学校を襲った。
「きゃ~!」
「みんな、無事か!?」

他の生徒達と高台へと避難している最中、海斗は黒い海水が、自分達が住んでいる街を呑み込んでゆく姿を見た。

両親と弟とは、数日後避難所で再会した。

海斗は彼らと抱き合いながら安堵の涙を流したが、苦難の時はまだ始まったばかりだった。

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2023.10/15(Sun)

蒼い鳥 第1話


海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。


1873年、ロンドン。

「産まれたぞ!」
「男か、女か?」
「その子は化物よ、早く捨てて来て!」
ヒステリックな女の声が、彼女の寝室から聞こえて来たので、廊下に居た使用人達は驚き、互いの顔を見合わせた。
やがて寝室から、赤子の乳母が赤子を抱いて出て来た。
「リリー、その子をどうするんだい?」
「わたしが、育てるわ。」
10月の寒空の下、リリーは長年勤めていた屋敷を解雇された。
だが、彼女は己の腕に抱いている赤子を育てる事だけを考えた。
ロンドンを離れ、彼女が向かったのは、プリマスだった。
そこには、リリーの育ての親であるイーディスが、食堂兼宿屋を営んでいた。
「お帰りなさい、リリー。」
「ただいま、イーディス。」
「その子は?」
「今日から、わたしの子になったの。」
「そう。」
イーディスは深く詮索せずに、リリーと赤子を受け入れた。
今まで育児の経験がなかったリリーは赤子の世話に悪戦苦闘していたが、イーディスの助けて貰いながら赤子を育てた。
それから17年後、プリマスにある食堂兼宿屋『白鹿亭』は、今日も繁盛していた。
店の名物は、海斗とリリーが作る香草パンだった。
「カイト、小麦粉を買って来て!」
「わかった!」
「気を付けてね!」
『白鹿亭』から出た海斗が買い物籠を持って『グレイス食料品店』に入ると、そこには英国海軍の軍服を着た青年が店員と揉めていた。
「卵はこれだけなのか!?」
「申し訳ありません。」
「もういい!」
海斗は今にも泣きそうになっている店員の元へと向かった。
「大丈夫?」
「ええ。」
「あんなクソ野郎なんて、地獄に落ちればいいんだ。」
「カイト、小麦粉どうぞ。」
「ありがとう。」
『グレイス料理店』から出た海斗は、店の入口で一人の青年とぶつかった。
「済まない、怪我は無いか?」
「はい・・」
ぶつかった拍子にバランスを崩した海斗を助けてくれたのは、英国海軍の軍服を着た、金髪碧眼の美青年だった。
(同じ軍人でも、あんなに違うのかねぇ・・)
海斗が食堂で忙しく働きながらそんな事を思っていると、先程『グレイス食料品店』で店員と揉めていた男が、急に海斗の腕を掴んだ。
「おいお前、酌をしろ!」
「お客さん、そういうサービスを受けたいのなら、よこへ行きな!」
「何だと!」
海斗と男が揉めていると、そこへあの青年がやって来た。
「このお嬢さんの言う通りだ、ジョー。」
「畜生、覚えてろよ!」
男はそう叫ぶと、『白鹿亭』から出て行った。
「カイト、大丈夫!?」
「うん・・ごめんね、リリー。」
「あなたが謝る事は無いわ。あんなクソ野郎は出禁にしてやるわ。」
リリーはそう言うと、海斗の肩を励ますかのように叩いた。
「助けてくれて、ありがとう。」
「いや、俺はこんな可愛い子ちゃんと一度、話がしたかったのさ。」
「え・・」
「女将、暫くこの子をかりてもいいか?」
「構いませんわ。」
リリーはそう言うと、海斗とジェフリーを夜の街へと送り出した。
「あの・・さっきは、どういう意味であんな事を?」
「言ったのかって?あれは本心からだよ。自己紹介が遅れたな、俺はジェフリー=ロックフォード。」
「俺はカイト。」
「なぁカイト、その髪は地毛なのか?」
「うん。やっぱりこの髪、変かな?」
「いや、とても綺麗だ。」
ジェフリーと海斗は、“ホーの丘”まで歩いた。
「また、会える?」
「会えるさ、お前が望めば。」
「うん。」
ジェフリーと『白鹿亭』の前で別れた海斗は店の二階にある自室に入ると、結っていた髪を解き、ウェストを締め付けているコルセットの紐を緩めた。
「ふぅ・・」
「カイト、今入っても大丈夫?」
「うん。」
リリーが海斗の部屋に入ると、彼女は寝間着姿でベッドに横になっていた。
(あの人に、また会いたいな。)
翌日の昼、ランチタイムで賑わう『白鹿亭』の前に、立派な四頭立ての馬車が停まった。
「立派な馬車だねぇ。」
「本当に。」
「一体どなたの馬車なんだろうね?」
客達がそんな事を言っていると、馬車から一人の青年が降りて来た。
長身を仕立ての良いフロックコートに包んだ男は、厨房から出て来た海斗の前に突然跪いた。
「お迎えに上がりました、お嬢様。」
「え?」
「大奥様が、あなたをお呼びです。わたくしと共に、ロンドンへ・・」
男がそう言って海斗を見ると、彼女は気絶し床に倒れていた。
「あなた、誰?カイトに何をしたの?」
「失礼、わたしはビセンテ=デ=サンティリャーナと申します。エルフィリン子爵家より、カイト様をお迎えに上がりました。」
「エルフィリン子爵家ですって?」

そこは、リリーが17年前に海斗と共に追い出された、元職場だった。

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15:19  |  蒼い鳥  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/15(Sun)

夢の雫 第一話


海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

オメガバースについてはこちらを参考にしてください。

オメガバースに嫌悪感を抱かれている方は閲覧しないでください。

―ねぇ、また会える?
―会えるさ、君が願えば。
蝉時雨に包まれた神社の境内で、“彼”はそう言って海斗に微笑んだ。
―また、ここで会おう、約束だ。
―うん!
また、懐かしい夢を見た―東郷海斗はそう思いながら、布団の中で何度目かの寝返りを打った。
「カイト、起きなさい!」
「ん・・」
海斗は眠い目を擦りながら、他の従業員達と共に朝食の準備を始めた。
海斗がこのホテルで働くようになったのは、三年前の事だった。
三年前、海斗は家族とロンドンで裕福な生活を送っていたが、突然彼らの母国が消滅―正確に言えば某国の植民地となってしまい、財産は没収され、海斗達は収容所に連行された。
収容所は、広大な雪原の上に建てられた鉄筋コンクリートの建物で、電気・ガス・水道などはなく、食事は半分カビが生えたパンと、野菜が少し浮いた粗末なパンだけだった。
鉄道の敷設工事や、トンネルの建設工事などの重労働に老若男女関係なく課せられ、不衛生な環境と極度の栄養失調で次々と命を落とす者が増えていった。
不衛生な環境でチフスや結核、疥癬などの伝染病が蔓延し、海斗は両親と弟をチフスで亡くし、収容所でただ死を待つだけの日々を送っていた。
そんな中、海斗は収容所を脱走し、ロンドンの街を彷徨っていた。
彼女がゴミ箱から残飯を漁っていると、そこへ一人の男がやって来た。
『そこで何をしているんだ?』
大寒波に見舞われたロンドンで、海斗は裸足で粗末な木綿のワンピース姿だった。
「あんたには関係ないだろう、離せよ!」
男と揉み合った時、海斗は突然眩暈に襲われ、その場で倒れてしまった。
『気が付いたか?』
『俺、どうして・・』
『栄養失調で倒れたんだ。君は、もしかしてあの収容所の子か?』
『そうだよ。あんな所には居られないから、逃げて来たんだ。』
『行く当てはあるのか?』
男の問いに、海斗は首を横に振った。
『ならば、うちで働いてみないか?』
『え?』
海斗が会った男は、ビセンテ=デ=サンティリャーナといい、ホテルのオーナーだった。
ビセンテと出会った海斗は、ひょんな事から彼が経営するホテルで働く事になった。
それから三年が経ち、海斗はホテルでメイドとして忙しい日々を送っていた。
「カイト、三〇五号室の掃除をお願いね!」
「はい!」
「それが終わったら、今夜のパーティーの準備を手伝って!」
「はい!」
毎日分刻みのスケジュールで仕事に追われ、仕事を終えると海斗は社員寮の部屋で着替えもせずに泥のように眠った。
その日も、海斗は朝から忙しく働いていた。
「あ~、疲れた。」
昼休憩に入り、海斗がそう言いながら自販機でコーヒーを飲んでいると、そこへ同僚のカーラがやって来た。
「カイト、オーナーがお呼びよ!」
「はい、わかりました。」
海斗が支配人室のドアをノックすると、そこには少し険しい表情を浮かべていた。
「支配人、お呼びでしょうか?」
「カイト、今夜は時間あるか?」
「はい・・」
「突然で申し訳ないのだが、今からわたしと一緒に来て欲しい。」
「え・・」
突然、海斗がビセンテに連れて行かれたのは、ホテルの隣にある高級ブティックだった。
「いらっしゃいませ。」
「彼女に似合うドレスを何着か、選んでくれ。」
「あの・・他のお客様の姿が見えませんが・・」
「貸切にしてある。」
ビセンテによって貸切になったブティックで、海斗は何着かドレスを選んだ。
「あの、このドレスは幾らですか?」
「わたしが払うから、心配しなくていい。」
「そんな・・」
「突然事情を説明せずにこんな所に連れ出してしまって済まない、実は・・」
ブティックを出た後、カフェでビセンテは海斗とコーヒーを飲みながら、海斗に事情を説明した。
「は、縁談?」
「お前もそろそろ身を固めても良い頃だ。」
「わたしは結婚など考えておりません。」
今夜開かれるパーティーに、ビセンテは海斗に恋人の振りをして欲しいと海斗に頼むと、彼女は頷いた。
「わかりました。」
「いいのか?」
「シンデレラみたいな体験を一度、してみたかったんです。」
その日の夜、ホテルの最上階にある宴会場では、サンティアゴ・グループ財閥創立百周年記念パーティーが開かれていた。
「それにしても、今夜はあのビセンテ様が婚約者を連れて来るのですって?」
「どんな方なのかしら?」
「さぁ・・」
ドレスや宝石で着飾ったご婦人達がそんな事を話していると、会場にビセンテと海斗が入って来た。
―まぁ、綺麗な方ね・・
―本当に・・
「あの、俺おかしいですか?」
「いいや、とても綺麗だ。」

そう言ったビセンテの翠の瞳には、情熱の炎が宿っていた。

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15:17  |  雑記帳  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/15(Sun)

Forbidden Lover Ⅰ


シエルが両性具有です、苦手な方はご注意ください。


大雪の日、一組の双子がこの世に生を享けた。
一人は美しい星空のような蒼い瞳を持った男児で、もう一人は、美しい朝焼けを思わせるかのような紫と、兄と同じ蒼い瞳を持った―
「悪魔・・」
「大奥様・・」
「この子は、この家に不幸を齎す!今すぐ、捨てて来なさい!」
男女両方の性を持った赤子は、修道院の前に捨てられた。
院長のマザー・アグネスは、その赤子を「シエル」と名付け、大切に育てた。
『シエル、朝食の時間ですよ。』
『今行きます。シスター。』
朝の祈りを終えたシエルが礼拝堂から出ようとした時、一人の青年とぶつかった。
『お怪我は有りませんか?』
『はい・・』
恐ろしいまでに美しく整った男の、紅茶色の瞳が、光を受けて暗赤色に輝いた。
『あなたは、とても美しい瞳をしていらっしゃるのですね。』
『え?』
『それに、あなたが今胸に提げていらっしゃるロザリオ、とても高価な物ですね。』
(頭が、クラクラする・・)
青年と話している内に、シエルは彼からまるで魂を吸い取られそうになった。
『まぁ、ミカエリス司祭、こちらにいらっしゃったのですね!』
マザー・アグネスの声に我に返ったシエルは、脱兎の如くその場から逃げ出した。
「おやおや、嫌われてしまいましたか。」
「ミカエリス司祭、シエルの事が気になりますの?」
「ええ。あの瞳は生まれつきですか?」
「はい。あの子は、赤ん坊の頃この修道院の前に捨てられていたのです。あの子が持っていたのは、ロザリオと、産着に刺繍されていた“シエル”という名だけ。」
「そうですか。」
朝食の時間、シエルは食堂であの青年と再会した。
「シエル、紹介するわね。今日からこの修道院に赴任して来た、ミカエリス司祭様よ。」
「はじめまして・・」
「はじめまして、シエルさん。これから、よろしくお願いしますね。」
ミカエリス司祭は、そう言うとシエルに微笑んだ。
「シエル、あの方に何か言われたの?」
「ロザリオの事を、尋ねられました。」
シエルはそう言うと、胸に提げているロザリオを握り締めた。
その中央には、美しい蒼いダイヤモンドが嵌め込まれていた。
他の修道女達は、皆質素なロザリオを身に着けているが、シエルのそれは王侯貴族のものだった。
(僕は一体、何者なんだろう?)
シエルはそんな事を思いながら、村の中を歩いていた。
その時、彼女は一台の馬車に轢かれそうになった。
「気をつけろ!」
「申し訳ありません。」
馬車の窓から、一人の青年が顔を覗かせた。
「おい、何をしている!」
「申し訳ありません・・」
シエルは、その青年が自分と瓜二つの顔をしている事に気づいた。
「お前は・・」
「失礼致します。」
シエルは足早にその場から立ち去った。
「おい、あれ・・」
「可愛い娘だな。」
シエルが村を抜け、人気のない街道へと入ると、彼女の背後から数人の男達が忍び寄り、彼女の口を塞ぎ、その華奢な身体を押し倒した。
「大人しくしな、天国を見せてやるからさぁ。」
男達はシエルの服を切り裂き裸にした。
だが彼らは、その直後地獄へと向かった。
「おやおや、誰かと思ったらあなたでしたか。」
空に浮かぶ月が、シエルの白い裸体とミカエリス司祭の姿を照らした。
「やはり、彼らが言っていたのは本当だったのですね。」
「ミカエリス司祭様・・」
「セバスチャン・・それがわたしの名前です。さぁ、わたしの名を呼んで、“坊ちゃん”。」
「セバスチャン・・」
「漸く、会えましたね。もう二度と、あなたを離しはしない。」
セバスチャンは、シエルの唇を塞ぐと、その華奢な身体の上に覆い被さった。
「さぁ、今一度契約を結びましょう。」
「契約?」
「ええ、契約ですよ。」

セバスチャンに身を委ねたシエルは、静かに目を閉じた。

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14:46  |  Forbidden Lover  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/15(Sun)

Swan Song ◇Ⅰ◇


やっと、解放される―ヤン=グリフィスはそう思いながら、長年自分を苦しめて来た悪魔の胸に刃を突き立てた。
いつも淡褐色の瞳を金色に輝かせながら自分を見つめていたラウルの、恐怖と驚愕が綯い交ぜになった表情を、ヤンは脳裏に焼き付けることにした。
だがその直後、ヤンはラウルが隠し持っていた短剣で首を刺された。
「地獄へ逝くのなら、お前も道連れにしてやる・・」
ネーデルラントという名の湿地に棲む蛇は、死しても尚、ヤンの魂に執着していた。
(悪いな、ラウル。俺はもう、自由の身だ。)
唯一の心残りといえば、亡き友の息子を迎えに行ってやれない事だ。
(マヌエル・・)
もし、次の世で生まれ変わる事が出来るというのなら、必ずマヌエルを迎えに行こう。
必ず―
目覚まし時計のアラームで、ヤンは夢から覚めた。
窮屈に身体を折り曲げた所為で悲鳴を上げる全身の筋肉をほぐしながら、ヤンは浴室に入った。
その首には、あの焼き印―奴隷の証はなかった。
(こんなに爽やかな気分で迎える朝は、久し振りだ。)
淹れ立てのコーヒーをマグカップに注ぎながら、ヤンは焼き立てのトーストを味わった。
(さてと、そろそろ出掛けないとな・・)
壁掛け時計は、午前八時を指していた。
ヤンは部屋から出ると、漁港へと向かった。
「おはよう、ヤンさん。今日はいいの、入っているよ!」
「そうか、ありがとう。」
新鮮な海産物をバンに積んだヤンは、店がある東京へと一路それを走らせた。
新宿の繁華街から少し離れた所に、ヤンの店はあった。
その店には、“シーフードレストラン・キャサリン”という看板が掲げられていた。
ヤンがこの店を開いたのは十年前―傭兵を辞め、流れ着いたこの国で暮らし始めた頃の事だった。
この店は、前は小洒落たフレンチ・ビストロだった。
オーナーの男は、公園でその日暮らしをしていたヤンに声を掛け、自分の店で雇ってくれたのだった。
長身で強面の外国人であるヤンを、何処に行っても雇ってくれる所は無かったし、公園の路上に暮らしても、新参者のヤンはホームレスのコミュニティから爪弾きにされ、餓死するのは時間の問題だった。
そんな中、店のオーナーの男・前田に拾われたヤンは、漸く安定した生活を送れる事になった。
長い傭兵生活の中で、ヤンが身に着けた特技は、料理だった。
死と隣り合わせの生活を送っている中、気分転換に始めたものだったが、いつしか夢中になっていった。
ヤンは、前田の元で働き始めて、調理師の資格を取り、客の開店資金を貯め始めた。
後少しで目標額に達成しようとした時、前田が病に倒れた。
「ヤン、この店を継いでくれ。」
「親爺さん・・」
「あんたなら、この店を任せられる。」
こうして、ヤンは前田の店を継いだ。
店の改装をして、シーフード・レストランとして店を開くと、前の店の常連客や、新規の客で店は賑わった。
店の営業時間は、午前十時から十四時、十八時から二十二時までで、ランチ営業にヤンの故郷・ベルギーの人気スイーツ・ワッフルサンドを出したら、それがスイーツ好きの女性達に受けた。
「いらっしゃいませ。」
ランチ営業が始まり、店はたちまち女性客達で賑わった。
「え、ここか?」
「ここのワッフル、美味しいんだって!」
ドアベルが鳴り、店に入って来たのは赤毛の制服姿の少年と、金髪碧眼の美青年だった。
(まさか、こんな所で再会するなんてな・・)
「いらっしゃい、ご注文は?」
「ワッフルセットでお願いします。」
「わかりました。」
ランチ営業を終えたヤンが、煙草を吸いながらひと息ついていると、店のドアベルが鳴った。
「すいません、今準備中で・・」
「捜したぞ、ヤン=グリフィス。」
「あんたは・・」
ダークグレーのスーツ姿の男を見たヤンは、驚きの余り咥えていた煙草を落としそうになった。
あの悪魔の親族で、ネーデルラント総督だった男。
「一体この俺に何の用だ?」
「実は・・」
“パルマ公”は、あの悪魔―ラウルが手に負えず困っているという事をヤンに話した。
「それで?俺は今更、あいつのお守りなんて御免だぜ。」
「・・貴様なら、そう言うと思った。」
彼は、自分の名刺をヤンに渡すと、店から去っていった。
(あいつとまた関わり合いになるなんて、ごめんだ。)
その日の夜、ヤンが店の営業を終えて裏にゴミを捨てに行こうとした時、ゴミ箱の前で二人の女が言い争っていた。
「あたしの男、取ったでしょ?」
「酷~い、何でそんな事を言うのぉ?」
「ふざけんな!」
服装と会話から見るに、何処かのクラブのホステス達だろうか、一人の女がもう片方の女の頬を殴った。
「おい・・」
「誰に向かって口をきいているんだ、お前!」
ガツッ、という鈍い音と共に女の悲鳴が路地に響いた。
ヤンが見ると、そこには先程まで頬を殴っていた女が地面に倒れていた。
「何してる!?」
「誰か、警察呼んで!」
「命拾いしたね。」
女はそう言うと、地面に倒れている女に唾を吐き、その場から去っていった。
女がタクシーに乗り込む時、ヤンはその横顔を何処かで見たような気がした。

(まさか、な・・)

2020年、新型コロナウィルスが世界中に蔓延し、日本政府は非常事態宣言を発令した。
ヤンは、店を臨時休業にしたが、再開の目処が立てずにいた。
(これから、どうしようか・・)
途方に暮れているヤンの元に、“パルマ公”がやって来たのは、店が臨時休業になってから三ヶ月が経った頃だった。
「ここへ、今夜来い。」
「わかった。」
その日の夜、ヤンは六本木のクラブへと向かった。
そこには、リズムに乗って踊り狂う若者達の姿があった。
ヤンには全く縁のない世界だった。
「来たか。」
「こんな所に俺を呼び出してどうする気だ?」
「例の話、考えてくれたか?」
「断ると言っただろう。」
「そうだが・・」
“パルマ公”が渋面を浮かべながらワインを飲んでいると、フロアから一人の女が二人の元へとやって来た。
「やっと見つけたよ、ヤン。」
「お前は・・」
フロアのライトに照らされたその顔に、ヤンは思わず息を呑んだ。
かつてヤンを苦しめ、その魂を雁字搦めにしていた悪魔―ラウル=デ=トレドは、口元に弧を描きながら黄金色の瞳でヤンを見つめた。
「ずぅっと、お前を捜していたんだよ。“あの時”の復讐をどう果たそうと・・」
「俺は、あんたの言いなりにはならない。」
「そう。」
ラウルはそう言った後、笑った。
「このまま、お前を逃がしはしないよ。」
「そうか。」
ヤンは、そう言うとクラブを後にした。
数日後、ヤンがアパートの部屋でビールを飲んでいると、突然誰かが玄関のドアをノックした。
(誰だ?)
ヤンがインターフォンの画面を見ると、そこには泥酔しているラウルの姿があった。
(どうして、ここがわかった?)
「おい、居ないのか!?」
このままだと埒が明かないので、ヤンはドアを開け、ラウルを中へ招き入れた。
「どうして、ここがわかった?」
「私は、お前を捜していたと言っていただろう?」
「俺は・・」
「もう、“あの子”は居ない。でもね、お前を必ず見つけ出して、復讐してやると、“あの時”決めたんだ。」
「それで、そんな事を言う為にわざわざ来たのか?」
「それもあるけれど、お前を手に入れる為にはどうすればいいのか、色々と考えたんだ。」
ラウルは、そう言うとヤンをソファの上に押し倒し、彼の下腹をまさぐった。
「やめろ・・」
「お前を、今度こそ離さないよ。」
雷鳴と共に、稲光を受けたラウルの淡褐色の瞳が、美しくも禍々しい黄金色に輝いた。
翌朝、ヤンが二日酔いで痛む頭を抱えながらソファの中で寝返りを打っていると、玄関のチャイムが鳴った。
「は、ここから出て行け?」
「はい・・」
「何で急に?」
「お前の荷物は、私の家に運んだよ。」
ラウルが住んでいるのは、高層マンションの最上階だった。
「これからよろしくね、ヤン。」

ラウルは、どんな手を使ってもヤンを自分の元に縛り付けたいようだ。

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14:44  |  Swan Song  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/15(Sun)

愛の旋律 第1話


海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが嫌いな方はご注意ください。


(遂に、ここまで来たんだ・・)

舞台袖から客席の方を見た東郷海斗は、客席が全て埋まっているのを見て、緊張で胸が高まった。

「カイト、大丈夫か?」
「う、うん・・」
「いつもの通りに、歌えばいい。」
「わかった。」
ナイジェル=グラハムは、そっと海斗のうなじにキスをした。
「さぁ、行って来い。」

海斗は大きく深呼吸すると、舞台へと向かった。
万雷の拍手に迎えられた後、彼女は静かに歌い始めた。

「和哉、いよいよだね!」
「うん。それよりも海斗、声楽科じゃなくてピアノ科に行ったなんて驚いたな。」
「そう?」

プリマスにあるバックランド=アビィ音楽大学に、二人の日本人が入学した。
東郷海斗と森崎和哉は、共にこの大学のピアノ科に入学した。
しかし、海斗は声楽科に本当は入りたかったのだが、それを母・友恵に猛反対された。
「あなたは有名なピアニストになるの。ママがなれなかったものに、あなたはなるの!」
声楽家になる夢を諦め切れずにピアノ科に入学した海斗だったが、胸の内に燻る思いは消える事はなかった。
そんな時、海斗がキャンパス内を歩いていると、食堂の前に大きなポスターが貼ってあった。
「“夜の女王”オーディション・・」
「毎年、モーツァルトの『魔笛』が、五月に行われるんだ。」
海斗がポスターを見ていると、いつの間にか彼女の隣には金髪碧眼の美男子が立っていた。
「あなたは?」
「俺は、ジェフリー=ロックフォード、ヴァイオリン科二年だ。」
「東郷海斗、ピアノ科一年だ。」
「可愛いな。」
美男子―ジェフリー=ロックフォードはそう言って笑うと、海斗の唇を塞いだ。
「何すんだ、この変態!」
海斗はジェフリーに平手打ちすると、その場から去っていった。
「ジェフリー、こんな所に居たのか?」
「ナイジェル。」
ジェフリーが背後を振り向くと、そこにはヴァイオリン科のナイジェルが呆れたような顔をしていた。
「またナンパか、いい加減にしろ。」
「いやぁ、赤毛のキュートな子が居たからつい、な・・」
「“夜の女王”オーディションか。あんたも出るのか?」
「まぁな。ナイジェル、その顔、どうしたんだ?」
ジェフリーはそう言うと、ナイジェルの左頬に赤黒い痣が出来ている事に気づいた。
「客に殴られた。いつもの事だ。」
ナイジェルは学費を稼ぐ為、ロンドン市内のパブでアルバイトをしていた。
「それにしても、もうすぐ試験が近いんだろう?余り根詰めるなよ。」
「わかった。」
“夜の女王”オーディションの書類選考に海斗が合格している事に気づいたのは、オーディションに応募してから数日後の事だった。
「“第二次選考は、自分が好きな曲を歌う”かぁ。海斗はもう、歌う曲は決まったの?」
「うん。」
海斗はそう言うと、スマートフォンでセリーヌ・ディオンの『To Love You More』を再生した。
「この曲、海斗がいつもカラオケで歌っている曲だよね?」
「他にも歌いたい曲があるけれど、この曲が一番好きだったなぁって思って。」
「へぇ。でも、この曲はヴァイオリンの伴奏が必要だよね?僕が伴奏してあげようか?」
「うん、助かる!」
だがオーディションの第二次選考前日、和哉はバイト先のパブから寮に帰る途中、バイクで交通事故に遭い全治三か月の怪我をして入院する羽目になってしまった。
「海斗、ごめん・・」
「俺は大丈夫だから、和哉は怪我を治す事だけを考えて。」
「わかった・・」
和哉の手前、海斗はそう言ったものの、ヴァイオリン伴奏をしてくれる人を捜したが、一向に見つからなかった。
焦る内に、オーディションの時間が刻一刻と迫って来ている。
(どうしよう・・)
「どうした、困っているようだな?」
「あんた・・」
海斗は、藁にも縋るような思いで、ジェフリーに事情を話した。
「わかった。」

オーディション第二次選考会場となる講堂には、海斗以外の応募者が集まっていた。

「すいません、遅れました!」

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14:35  |  愛の旋律  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2023.10/14(Sat)

その愛は、緋く 《壱》


海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

「海斗様、どちらにおられますか~!」
「海斗様!」
東郷海斗は、自分を捜し回る使用人達の目を盗み、ある場所へと向かった。
そこは、夏の暑さを凌ぐ為に海斗が見つけた、秘密の泉だった。
(誰も居ないな・・)
海斗は胸元を覆っていた晒を解き、着物と袴を脱いだ後、冷たい泉の中へと入った。
サラサラと、木の葉が揺れる音が心地良い。
「海斗、見つけたよ。」
「和哉・・」
「勝手に居なくなったと思ったら、ここに居たんだね。」
海斗の幼馴染で許婚の森崎和哉は、そう言うと自分も着物と袴を脱いで泉の中へと入った。
「今日は一体、何が気に入らなかったの?」
「ババアが、勝手に俺の結婚を決めた。俺は・・」
「そんなに僕と夫婦になるのが嫌?」
「そんな訳、ないけれど・・でも、まだ結婚はしたくない。」
「そうだね。」
和哉はそう言うと、海斗をそっと背後から抱き締めた。
「僕は、君が結婚したくなった時に結婚するよ。」
「和哉・・」
「帰ろう。小母様達が心配しているよ。」
「わかった。」
和哉と海斗が東郷家に戻ると、そこには役人に囲まれた海斗の父・洋介の姿があった。
「父さん、どうして・・」
「信じられないねぇ、まさか東郷様が謀反に加わっていたなんて・・」
「そんな人ではないと思っていたのにねぇ。」
洋介は謀反に加わっていた疑いを掛けられ、斬首された。
東郷家は取り潰しとなり、海斗は一人、遊郭へ売られた。
「父上、何とか出来ないのですか?」
「済まない、わたしにはどうする事も出来ない。」
「そんな・・」
和哉は居ても経ってもいられず、屋敷から飛び出した。
「海斗!」
「和哉・・」
彼が海斗を捜していると、彼女は丁度人買いに駕籠に乗せられる所だった。
「必ず迎えに行くから、だから・・」
「和哉・・」
繋いでいた二人の手は、ゆっくりと離れていった。
どうして、こんな事になってしまったのだろう。
揺れる駕籠の中で、海斗は一人、涙を流した。
「着いたぜ、降りな。」
海斗はゆっくりと、駕籠から降りた。
するとそこには、美しく幻想的な風景が広がっていた。
「あの、ここは・・」
「ここは吉原、夜の華達が居る所さ。」
人買いの男は、海斗を一軒の妓楼へと連れて行った。
「おや、来たのかい。」
妓楼の裏口から海斗が人買いの男と共に中へ入ると、そこには煙管を咥えた女が、そう言って二人を冷たく睨みつけながら座布団の上に座っていた。
「この子かい、謀反人の娘は?」
「父さんは謀反人なんかじゃありません!」
「お黙り!ここで世話になる以上、このあたしに口答えするんじゃないよ。」
妓楼・華楼の女将・菊は、そう言った後海斗の頬を叩いた。
「顔は可愛いね。この赤毛は生まれつきかい?」
「はい。」
「着物も上等な物を着ているじゃないか。これだけでも金になりそうだ。」
「俺に触るな!」
「善次、この子の着物を脱がしな。」
奥から屈強な男が現れ、海斗の着物を無理矢理脱がせた。
肌襦袢姿となった海斗は、そのまま裏口から外へと出ようとしたが、男に阻まれた。
「この期に及んで逃げようとするなんて、往生際が悪いね。」
「女将さん、この子はふたなりなんですよ。」
「へぇ・・」
菊は、口端を上げて笑うと、海斗の肌襦袢を脱がした。
晒しまで剥ぎ取られ、生まれたままの姿となった海斗は、羞恥と屈辱で震えていた。
「ふたなりだね。でも、この子は生娘なのかい?」
「へい。」
「ま、武家娘だから読み書きは出来るだろうさ。禿としては薹が立っているけれど、使い物にはなるだろうさ。」
「女将さん、その子かい、新しく入って来た子っていうのは?」
海斗が女将の部屋の隅で震えていると、そこへ一人の遊女が入って来た。
美しい簪や櫛で淡褐色の髪を飾り、鮮やかな着物を羽織ったその遊女は、淡褐色の瞳で海斗を見た。
(嫌な感じ・・)
「ラウル、この子に何か用かい?」
「別に。」
ラウルはそう言うと、部屋から出て行った。
海斗は緋色の着物を着せられ、禿部屋へと連れて行かれた。
「あんた、名前は?俺は凛。」
「海斗。」
「海斗、ここで生き残りたきゃ、芸を磨きな。身体を売りたくなかったら、芸者として生きる道があるよ。」
「本当!?」
「あぁ、うちの紫姐さんは、吉原一の芸者だったんだ!」
「そうなんだ。」
海斗は華楼に売られてから、雑用に追われながらも芸事に専念するようになった。
「女将さん、あの赤毛の子、遊女よりも芸者の方が向いているのと違います?」
「そうだねぇ、うちは置屋も兼ねているから、海斗には芸者になった方がいいかもしれないねぇ。」
華楼一の吉原芸者・紫の助言もあり、海斗は遊女(娼妓)ではなく芸者としてお披露目する事になった。
海斗は、江戸に初雪が降った日に、芸者としてお披露目の日を迎えた。
「見てごらん、あの子が・・」
「武家のお姫様が芸者になるとはね・・」
海斗はお披露目を終えた後、初めて芸者として、「渚屋」のお座敷に上がった。
『へぇ、見事な赤毛だな。』
そう言って海斗に好色な視線を送ったのは、英国海軍将校・アーサー=ハノーヴァーだった。
『下の毛も赤いのか?それ、見てみよう。』
アーサーは、海斗の腕を掴んで自分の膝上に座らせると、彼女の着物の裾を捲り上げようとした。
「嫌だ、やめて!」
海斗はアーサーを平手打ちすると、そのまま部屋を飛び出した。
『おい、大丈夫か?』
『すいません・・』
廊下を走っていた海斗は、アーサーと同じ真紅の軍服を着た男とぶつかった。
『俺についてきな。』

そう言って蒼い瞳を自分に向けた男に、海斗は瞬く間に恋に落ちてしまった。


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2023.10/14(Sat)

燃ゆる、戀《1》



海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。

一部性描写が含まれます。


1918年冬、ロンドン。

オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者・フランツ=フェルディナントがサラエボで教壇に斃れ、欧州全土を覆っていた黒雲が漸く晴れたのは、クリスマス=シーズンを迎えた頃だった。
「はぁ・・」
「おいジェフリー、何度も溜息を吐くな。」
「わかったよ。」
泥や土で汚れた軍服を纏いながらも、ジェフリー=ロックフォードの美貌は少しも衰えていない。
「今年のクリスマスは、泥臭い塹壕で過ごす事はなさそうだ。」
「そうだな。」
「さてと、気晴らしに一杯飲みに行くか?」
「あぁ。」
ジェフリーと彼の親友・ナイジェル=グラハムがロンドンにあるパブ「鍵屋」に入ると、そこには二人と似たような連中―即ち地獄のような戦場から帰還した兵士達でごった返していた。
「済まないねぇ、今夜は満席なんだよ。」
「他を当たるか。」
「そうだな。」
ジェフリー達が「鍵屋」から出て夜のロンドンの街を歩いていると、テムズ川の方から人が言い争っている声が聞こえた。
「離しなさい、無礼者!」
「いいじゃねぇか、俺達と遊ぼうぜ?」
ジェフリー達が声のする方へと向かうと、そこには一人の赤毛の少女が数人の男達に絡まれていた。
「やめて、離して!」
「おいお前さん達、嫌がる女に絡むなんて感心しないなぁ。」
「うるせぇ!」
男達はそう叫ぶと、ジェフリーに殴りかかって来た。
だが、男はジェフリーに殴り返され、その場に無様にのびた。
「ひぃ!」
「これ以上痛い目に遭いたくなかったら、失せな。」
男達は、蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。
「大丈夫か、お嬢さん?」
「助けて下さり、ありがとうございます。」
赤毛の少女はそう言ってジェフリーとナイジェルに一礼した後、その場から去っていった。
「こんな夜中に若い娘が一体何をするつもりだったんだ?」
「さぁな。」
ジェフリーとナイジェルが娼館で一晩を過ごしている頃、赤毛の少女―海斗は、宿泊先のホテルのロビーで溜息を吐いた。
テムズ川に身を投げようとしたが、出来なかった。
「遅かったな。」
「申し訳、ありません・・」
「こっちへ来て酌をしろ。」
「はい・・」
父親と同じ年程の婚約者の前に海斗が向かうと、彼は濁った目で海斗を見た後、海斗をソファの上に押し倒した。
「嫌ぁ!」
「お前は金で俺に売られたんだ!」
海斗は、東郷伯爵家の“一人娘”として産まれた。
何不自由ない生活を送っていた海斗だったが、実家が経営していた会社が倒産し、海斗は借金のカタに一人の男の元へと売られた。
男は、異常な性癖の持ち主だった。
「お前が俺を拒んだら、お前の家族は路頭に迷う事になるぞ!」
暴れる海斗を拳で殴った彼は、気絶している海斗の振袖の裾を捲り上げた。
男が海斗の上に跨ろうとした時、彼は何者かに刃物で首を斬られ、殺された。
海斗は警察に男殺害の容疑をかけられ逮捕されたが、証拠が無い為即日釈放された。
「海斗・・」
「和哉、どうして・・」
警察署の前で、海斗は元許婚の森崎和哉と再会した。
「君を迎えに来たんだ。」
「そう・・」
和哉は自分の車に海斗を乗せると、人気のない場所へと向かった。
「和哉、一体何を・・」
「ねぇ海斗、ひとつ聞いてもいい?」
「なに?」
「海斗は、生娘なの?」
「どうして、そんな事・・」
「だって、君と僕は“あんな事”さえなければ、夫婦になる筈だったんだ。だから、君が生娘である事を僕が直接確めないとね。」
和哉は海斗を押し倒し、車の中で海斗を裸にした。
月光に照らされ、男女両方の証を持った海斗の身体が露わになった。
「痛い、痛い!」
「痛いのは最初だけだよ、海斗。」
和哉はそう海斗の耳元で優しく囁くと、海斗を奥深くまで貫き、腰を激しく動かした。
「君は僕の子を産むんだ。」
「和哉・・」
翌朝、和哉が宿泊先のホテルの部屋で目覚めると、隣に寝ている筈の海斗の姿がなかった。
海斗は、ホテルから抜け出し、テムズ川沿いをひたすら走っていた。
暫くすると、海斗は橋から身を乗り出して今度こそテムズ川に身を投げようとした。
だがその前に、海斗は昨夜自分を酔漢から助けてくれた金髪碧眼の男に止められた。

「助けて・・」


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2023.10/14(Sat)

麗しき歌声 第1話



海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意ください。


2020年、ロンドン。

コロナ=パンデミックによってロックダウンを余儀なくされ、閉塞感漂う生活を送っていたロンドン市民の一人が、ある動画に注目した。
その動画は、一人の女性が、「レ・ミゼラブル」の劇中歌を歌っている動画だった。
彼女の力強い歌声に励まされた彼は、SNSにこんなメッセージを添えてこの動画を紹介した。

『彼女の歌声は、まるで天使のような歌声だ。』

瞬く間にその動画の再生数は一億回を超え、SNS上で歌姫の正体探しを始める者が現れた。
「あ~あ、何でこんな事になったんだろう・・」
そう呟いて溜息を吐きながら、カウンターを拭いているのは、カフェで働いている東郷海斗だった。
ただ、気紛れで動画を撮っただけなのに、一億回も再生されるなんて思いもしなかった。
『おい、いつまでサボっているつもりだ!』
『すいません。』
『ったく、うちは穀潰しを養う程暇じゃねぇんだ!』
カフェの店主・イライジャはそう言うと、カウンターの奥へと消えていった。
プロの歌手を目指して、これまで幾つかのオーディションを受けたが、どれも書類選考で落とされた。
理由は、自分が日本人、アジア人だからだ。
何処かの大国のトップが、ある国をウィルスと呼んだ所為で、何の関係も無い欧米に住むアジア系住民に対するヘイト・クライムの被害に遭っていた。
幼少の頃から英国で暮らし、差別に遭った海斗だったが、今回のものは、今まで自分が受けていた差別とは全く違うものだと気づいていた。
『お疲れ様でした。』
カフェでのバイトを終えた海斗は、地下鉄のホームで電車を使っていると、突然誰かに背中を押され、ホームに転落しそうになった。
だがその前に、海斗は一人の青年に助けられた。
「大丈夫か?」
「はい。助けて下さって、ありがとうございました。」
海斗は金髪碧眼の青年に礼を言うと、電車に乗り込んだ。
(綺麗な人だったなぁ・・)
海斗が自宅アパートの部屋で一日の疲れを取っている頃、海斗を助けてくれた金髪碧眼の青年―ジェフリー=ロックフォードは、ロンドン市内にある大手レコード会社のスタジオへと入っていった。
「ジェフリー、今日もよろしく頼むぜ。」
「あぁ。」
今日、ジェフリーは新曲の録音をしに来ていた。
顔も名も明かさず、“G”と名乗り、動画サイトで楽曲を発表していたジェフリーだったが、ひょんな事から大手レコード会社のCEO、フランシス=ドレイクにその才能を見出され、プロのミュージシャンとしてメジャーデビューした。
“G”時代から多くのファンがついていたジェフリーの人気は、メジャーデビューした事により一気に上がり、瞬く間に彼はスターの仲間入りをする事になった。
新曲の録音を終えたジェフリーは、会社の近くにあるパブでエールを一気飲みした。
「新曲、良かったぞ。これからどうするんだ?」
「実は、俺の曲を歌ってくれる歌姫のオーディションをしようと思っている。」
「それは、いいかもしれないな。」
「俺はあなたにチャンスを貰えたように、人種や年齢、性別に関係なくチャンスをやりたいんだ。」
「そうか。」
ジェフリーの新曲がSNSで発表され、ファン達は歓喜した。
「え、オーディション!?」
スマートフォンで“G”の情報をチェックしていた海斗は、ヴォーカルのオーディション情報を知り、講義中なのに思わず叫んでしまった。
(どうしよう・・こんなの、人生に一度しかないじゃん!)
海斗はすぐに“G”が所属しているレコード会社へ書類を送った。
すると、書類を送ってから一時間後に、海斗のSNS宛にレコード会社からDMがあった。
『二日後に、下記の住所までお越しください。』
(え、え、嘘!?)
二日後、海斗がオーディション会場へと向かうと、そこには盛装した女性達の姿があった。
(うわぁ、とんでもない場違いな所に来ちゃった・・)
一瞬落ち込んでしまった海斗だったが、もう後戻り出来ない。
(ええい、当たって砕けろ!)
「カイト=トーゴ―さん、どうぞ。」
「失礼します。」
海斗が緊張した様子で会場に入ると、そこにはあの日、自分を地下鉄のホームで助けてくれた青年の姿があった。
「よぉ、また会えたな。」
「あなたは・・」

ジェフリーは、そう言うと海斗に微笑んだ。

(漸く会えた、俺のミューズ。)


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2023.10/14(Sat)

魔王と道化師 第1話


海斗は両性具有です、苦手な方はご注意ください。

一部性描写が有ります、苦手な方はご注意下さい。

(もう、潮時かな・・)

東郷海斗は、そんな事を思いながらアルバイト先のカフェで今日も忙しく働いていた。
地下アイドルとして活動していたが、一向にメジャーデビューの機会はなく、昼はカフェ、夜はキャバクラで働く生活を送っていた。
(向いていないのかな、俺には・・)
昼、自宅アパートの部屋にバイトを終えて戻った海斗が化粧をしていると、部屋に彼氏のアツシが入って来た。
「随分と早く帰って来たね。バイトはどうしたの?」
「辞めて来た。」
アツシはそう言うなり、海斗に抱きついて来た。
「もう今月、厳しいから・・」
「いいじゃん。」
アツシと付き合って、もうすぐ半年になるが、定職に就かずギャンブルと酒に依存する彼に、海斗は嫌気がさしていた。
「あ~、海斗の中最高!」
アツシとのセックスは、海斗にとって苦痛でしかなかった。
「もう、帰って・・」
「テメェ、何様のつもりだ!」
勝手に欲望を吐き出したアツシは、そう叫ぶと海斗の顔を拳で殴った。
「テメェみたいな化物は、ただ大人しく俺に抱かれていればいいんだよ!」
(化物、か・・)
海斗は男女両方の性を持って産まれて来た。
その所為で両親に家に閉じ籠められ、今まで外の世界を知らずに育った。
だが、中学生の時、初めてアイドルのステージを見て、自分もアイドルになろうと、大学進学を機に上京し、地下アイドルとして活動を始めたが、現実は甘くなかった。
大学は何とか卒業したものの、アツシと会ってしまったのが海斗にとって生き地獄の始まりだった。
朝昼晩汗水垂らして稼いだ金を、全てアツシに搾取される日々。
もう、限界だった―海斗はアツシの隙を突いて、彼の右目にネイルを施した人差し指を突っ込むと、全財産が入ったバッグを掴み部屋から出て行った。
裸足で只管海斗は走り続けていたが、突然現れた大型トラックに撥ねられ、意識を失った。
「誰か、救急車!」
遠くから、鳥の鳴き声が聞こえた。
海斗が静かに目を開けると、そこは見知らぬ舗装されていない道だった。
(ここは・・)
海斗が起き上がって辺りを見渡すと、広がるのは草原だった。
覚束ない足取りで彼女が歩いていると、砂埃を撒き散らしながら、馬に乗った集団が自分の方へとやって来る事に気づいた。
(どうしよう・・)
「今日は、余り良い獲物がいませんでしたね、おかしら。」
「そうだな。」
ジェフリー=ロックフォードは、部下達とそんな話をしていると、道の真ん中で立ち尽くしている少女の姿に気づいた。
「みんな、止まれ!」
「おかしら、どうしたんですかい?」
ジェフリーは自分達を怯えた目で見つめている赤毛の娘を見た。
胸元が大きく開いた裾が短いドレスを着た彼女は、追い剥ぎにでも遭ったのか、ドレスはボロボロに破れ、辛うじて秘部を覆い隠しているだけだった。
『大丈夫か?』
『助けて・・』
娘は、そう言うとジェフリーの腕の中で気絶した。
「おかしら、この娘っ子をどうするんで?」
「リリーの所へ連れて行く。」
ジェフリーは羽織っているマントを脱ぐと、それを海斗の身体に巻き付けた。
「リリー、居るか!?」
「どうしたの、ジェフリー?あら、その子は誰?」
「ちょっと訳有りでな。」
ジェフリーは行きつけの娼館・白鹿亭に海斗を連れて行くと、女将のリリーがジェフリーに抱かれている海斗を見て渋面を浮かべた。
「また、あなたの“悪い癖”が出たのかしら?」
「狩りの帰りに、道の真ん中で倒れていたんだよ。どうやら、追い剥ぎにでも遭って乱暴されそうになった所を必死で逃げて来たらしい。」
「そう・・全身痣だらけで、足も傷だらけね。トマソン先生を呼んで来た方が良さそうね。」
リリーはそう言うと、海斗をベッドに寝かせた後、部屋から出て行った。
娘と二人きりになったジェフリーは、娘が持っている奇妙な形をした鞄の存在に気づいた。
(この布、光沢があるな・・しかもこんなに赤く発色させた物なんて今まで見た事がない。)
「少し、中を見るぞ。」
ジェフリーが鞄の中を取り出すと、そこには鞄と同じ色の財布が出て来た。
「ん・・」
「気がついたか?」
海斗は、金髪碧眼の青年が自分のバッグを持っている事に気づき、慌てて彼からバッグを奪い返した。
「済まない・・」
「ここは、何処?」
「俺が贔屓にしている娼館だ。」
海斗はバッグに入れてあった預金通帳と印鑑が無事である事を確めると、安堵の溜息を吐いた。
「お前は、どうしてあんな所に居たんだ?」
「わからない・・悪い男から逃げて・・気がついたら、こんな所に居た。」
「そうか。」
「アツシは・・俺が付き合っていた男は、酒と賭け事に依存するクズだった。俺は、彼を殴って逃げて・・」
「そうか。お前の全身に痣があるのは、その男にやられたのか?」
海斗はジェフリーの質問に、静かに頷いた。
「もう、あいつと別れたかった。あいつは言ったんだ。“お前みたいな化物は、俺に大人しく抱かれていればいい”って・・」
「聞けば聞く程、クズだな。」
海斗は、ジェフリーと話している時に、自分の陰部が丸見えになっている事に気づき、慌ててシーツを頭から被った。
「お前・・ふたなりなのか。」
「気持ち悪いでしょう?」
「いや。俺は、お前に興味が湧いた。」
「え・・」
ジェフリーは、海斗を自分の方へと抱き寄せ、彼女の唇を塞いだ。
「ちょっと、やめて!」
「嫌だ、と言ったら?」
海斗は必死に抵抗したが、男の力の前では敵わなかった。
「済まない、少しふざけ過ぎた・・」
「あんたなんか、大嫌いだ!」
海斗がそう言ってジェフリーを睨んだ時、リリーとトマソン医師が部屋に入って来た。
「あなた達、何をしているの?」
「リリー、違うんだ・・これは・・」
「とにかく、外へ出なさい!」
白鹿亭で海斗がトマソン医師の診察を受けている頃、一人の貴婦人が地下牢の中で刺繍をしていた。
そこへ、獄吏が彼女の居る牢の前に立った。
「出ろ。」
「主よ、感謝します。」

貴婦人はそう言うと、胸の前で十字を切った。


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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

21:49  |  魔王と道化師  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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